1月3日(火)

 娘の小さな手を引いて、バスを降りた。交代乗務員の前を横切って、アルプラザへの横断歩道を渡る。寝起きでもご機嫌に歩いてくれている。

ーーパンと牛乳と、他に何かいる?
ーー卵かな。
ーー了解。

 アルプラザは、まだまだ正月気分。ごった返す食品売り場で最低限のモノをカゴに入れ、お利口さんだった亜衣のご褒美にリンゴジュースも。後で芽衣に怒られるかな? まぁ、良いさ。
 セルフレジを終え、アルプラザを出る。道なりに茨木川を越え、右に左に歩けば家に着く。誰も居ないつもりだったけど、灯りが点いてる? ドアを開ければ、見慣れない靴もある。
 亜衣は空になったリンゴジュースを僕に渡し、自分で靴を脱いで中へ入った。リビングから芽衣と男性の「おかえり」が聞こえてくる。
「ああ、牧人くん」
「お邪魔してます」
 芽衣に買い物袋を差し出し、リンゴジュースのパックを流しの脇へ置いた。背中のリュックをテーブルに降ろしながら、「ジュース飲ませちゃった。ごめんね」と謝ると「お出掛けだもんね。仕方ないよ」とパックを摘んで捨ててくれた。
「お祖母さんどうだった?」
「元気にしてたよ。他のみんなもピンピンしてた」
 リュックから、パイナップルケーキ、台湾茶、特別なパッケージのリプトン、南京町でも買えそうな月餅、調味料が出てくる。要らないと言ったのに、作りすぎたお節や手作りスイーツも入っていた。
「そっちはどうだった?」
「長男嫁の予定と映美の話で持ち切り」
「桃子さん、予定日いつだっけ?」
 亜衣と戯れている義理の弟に視線を送る。牧人は、亜衣にアクロバットな高い高いを繰り出しながら、「今年のGWです」と答えた。「妊婦を一人にしてよかったの?」と訊くと、「お義父さんの迎えで実家に行っちゃったんで、姉さんを送って行けって」と言った。
「それはありがとう。パイナップルケーキぐらいしかないけど、一つ持って帰る?」
「あ、じゃあ、いただきます」
 要冷蔵の品々は、出した側から芽衣に片付けられていた。3本積み上げられていた山から、1本を牧人の方へ移す。
「ちょっと早いけど、晩ご飯も食べてく?」
 芽衣は僕の隣に座り、飲みかけのコーヒーを飲む。僕は入れ替わりに空いたキッチンへ入り、蛇口を捻って手を洗う。
「いえいえ。もうお暇します」
 牧人は、亜衣を床に下ろす。亜衣はまだまだ遊んで欲しそうにしがみつくが、「ごめんね」と姪の頭を撫でながら、牧人は上着に手をかけた。芽衣は亜衣を手招きし、膝の上に座らせる。
「ゆっくりして行けばいいのに」
「ゆっくりしたいんですけど、向こうのお義父さんが『早く来い』らしいので」
 牧人は上着を羽織り、スマホの画面を見た。返事を送ったのか、顔を上げた。パイナップルケーキを持ってきた紙袋にしまい、そのまま玄関へ向かう。
「アレ、クルマ?」
「ええ。その辺のパーキングに」
「じゃあ、ガソリン代と料金だけ」
「いえいえ。また姉さんにはお世話になると思うんで」
 玄関まで見送りに来た亜衣の頭を撫で、「じゃあね」と声をかけると、そのままドアの向こうへ出て行った。薄暗がりの中を近場の駐車場へ向かって颯爽と歩いていく。
 さてさて、いつもの焼きそばをいつもの分量、作るとしますか。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。