1月22日(日)

 亜衣の着替えを気にかけながら、洗濯物を干している間、早くからウチに来ている敬子が、映美の相手をしてくれている。妻の芽衣は朝のスキンケアを終え、敬子と何か話している。
 洗濯を干し終え、掃き出し窓から中に入ると、空になった洗濯カゴを芽衣が脱衣所へ持って行ってくれた。一人で靴下も履けた亜衣は、テレビの前に座って熱心にプリキュアを見ている。もうそろそろ、新シリーズの時期。画面の中はクライマックスにふさわしい盛り上がりを見せている。
 映美を膝の上に乗せている敬子の向かいに座った。
「保育士も向いてるんじゃない?」
「向き不向きの前に、資格がないから」
「今から取ればいいじゃん。看護師とダブルライセンスなら、引く手数多だろ?」
「保育士、馬鹿にしすぎ。簡単じゃないって」
 敬子は、「ねー」と映美に同意を求めた。映美は楽しそうに「ねー」と反応を返す。
「じゃあ、復職すんの? そろそろ半年でしょ」
「ま、おいおいね」
 看護師一筋だったのに、去年の秋頃に離職してから、自由気ままに生活している。手が空いているからと祖母の介護、老人ホームへの入居手続き、祖母宅の整理なんかも任せっきりだから、無碍に「働け」とも言いにくい。
「あ、そうそう。こんなのも出てきたから、今のうちに渡しておくね」
 敬子は自分のカバンから、薄い額に入った賞状と手作り感あふれる冊子を取り出した。実家に置いてきたつもりだったが、祖母の家に仕舞ってあったのか。
「あ、懐かし〜」
 脱衣所から戻ってきた芽衣は、五冊ある冊子の中から一番上にあった分を手に取った。無造作にパラパラとめくっていく。
「そこに棚に、飾っておく?」
 壁際のカラーボックスに、雑誌が数冊入る隙間は空いている。その上も、賞状を並べて飾るにはちょうど良い空間がある。芽衣は意地の悪そうな目でこちらを見る。今し方最後まで見た冊子を置いて、次の冊子に手を伸ばす。
「な〜んて、冗談冗談」
「でも、表現者なら恥ずかしがっちゃダメだよねぇ」
「お、さすが敬子ちゃん。分かってる〜」
 女二人で楽しそうに笑い合う。賞状と冊子をテーブルの片隅に寄せ、端の方にまとめておく。芽衣は時計を見上げて、「さて、あとはよろしくね」と言って、寝室へ向かった。
 敬子はスマホを見て、今来た通知の詳細を読み上げる。
「あっちはエキスポシティで、コーヒー飲んでるって」
「え、もう着いたの? 流石に早すぎない?」
 テレビ画面では、まだプリキュアが踊り始めたところだ。
「ゆっくり待ってるから慌てずに〜、だって」
 敬子は「とりあえず、了解っと」とメッセージを返した。僕は亜衣と映美の上着を取ってくる。冷蔵庫に貼っていた「フードトラックEXPO」のチラシも外し、万博公園までの道のりに思考を巡らせる。
 スムーズに抜けられそうな道をシミュレートしている間に、敬子は僕の手から二人の上着をとって、プリキュアを見終わった亜衣にも着せ始めている。
「じゃあ、行きますか」
 敬子の合図で亜衣が玄関に向かう。敬子は映美の手を引いて靴を履かせてくれている。テレビを消し、食卓の上を軽く片付け、車のキーを取って外に出た。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。