3月24日(金)

 亜衣と映美とを芽衣に任せ、一人でふらっと業務スーパーまで買い出しに行ってきた。途中で蔦屋にも寄り道して、いちご大福も買ってきた。自分用にひとつ白餡を入れてもらったけど、取り合いにならないことを祈る。
 冷蔵庫の野菜室に、ささやかな買い足しを入れ、冷蔵室に筍の水煮やらベーコンやらを放り込む。すぐに使ってしまう予定だが、先にウスイエンドウを剥いて、豆ご飯の段取りをしなくては。
 買い物袋を片付けながら、ボウルとウスイエンドウのパックを手に食卓へ。教育テレビに釘付けになっている子供たちを眺めつつ、豆を剥くための準備を済ませる。一つずつ取り出しては、背中の丸くなった部分を押す。鞘が僅かに開いたら、隙間に指を入れて中身を取り出す。豆と一緒に付いてきてしまう三角の白い帽子もきっちり外して、ボウルに入れる。
 ボウルを軽く振った時に、まだ少し硬い豆同士が中でぶつかる音とか、ボウルに落ちる時の音に、春の訪れを感じてしまうのは僕だけらしく、芽衣の共感を得られたことはない。
 一つ剥いては豆を外す。一つ剥いては豆を外す。テンポよく豆を向き、一通り剥き終わったら、鞘を元々入っていたパックに戻し、ボウルは流しにおいて水を入れ、パックはゴミ箱に。
 豆を軽く洗ったら、今度は米を3合研ぐ。分量通りに水を入れ、豆を上に入れて、軽く塩を入れる。あとは、炊飯器を信じて、炊き込みモードでスイッチを押すだけ。
「ごめんね。任せっきりで」
 洗濯物を畳み終えた芽衣が、キッチンに入ってくる。両手を洗いに流しへ行こうとするのを、手で制する。
「そっちも疲れてるだろ? オレがやるから」
「いいの?」
「いいよ。ただの気分転換だし」
「じゃあ、よろしくお願いします」
 芽衣はサッと食卓に座った。映美を膝の上に置いて、テレビにかじりつく亜衣を眺めながら、手元のタブレットをサッと見る。
 両手鍋にたっぷりの水を入れ、ひとつまみの水を入れて火にかけた。換気扇のスイッチを入れ、さっき買ってきたブロッコリーを野菜室から出して水でよく洗う。
 この二、三日の間に飲んだ強炭酸水やら、エナジードリンクやらの残骸が目につく。先週の資源ゴミに出したところなのに、年度末の追い込みと鼻炎薬とで、僕の刺激物の摂取が増えている。
 武藤さんのところへ出社する日も増やしたりしたものの、久しぶりの本格的な繁忙期に在宅で根を詰めても、中々捗らない。僕はささやかに家事をすることでガス抜きを、芽衣にも何かリフレッシュになるものを段取りしたいが、向こうも向こうでそれなりに仕事が詰まっている。
 何かいいアイディアが出ないものか、今度はアスパラの硬い部分を折り取りながら、考える。ポキン、ポキンと、コレもコレで心地いい感覚なんだけど、本数はそれほど多くないからすぐに終わる尊さもある。断面をピーラーで少し削って、あとは軽くソテー、かな。
 ボコボコと沸騰してきたところに、ブロッコリーをフサの方から放り込む。あっという間に四月、それからゴールデンウィークがやってくる。今年の花見はどうしようか気にかけながら、次の段取りを考えた。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。