6月27日(火)
学祭のミスコンに出たら、スッと上位に入賞して卒業後はどこかのアナウンサーでもやっていそうな、「ザ・女子大生」が目の前の席でアイスコーヒーを飲んでいる。私も同じ大学に通う女子大生には違いないのだけれども、キャンパスの違いか、学部の違いか、あるいはそもそもの育ちや遺伝子が違うのか、同じカテゴリーに属しているとは思えない。
隣でホッチキス留めしたA4用紙をペラペラめくっている沙綾さんに目を向ける。哲朗さんも一兄同様、ボリューミーで可愛らしい人が良いんだろうか。身体の凹凸まで控えめにならなくても良いのにと、自分の胸元に手を当てる。一瞬チラッと見た私の視線に気がついたらしく、上坂さんと目があった。彼女の微笑みに弾かれるように、視線をそらした。
沙綾さんは資料を何度か繰り返し見て、「なるほどねぇ」と何度か頷いた。彼女は上坂さんの顔を見ながら、手元の資料を上坂さんに差し出した。
「あなたみたいな人が、こんな企画を持ってくるなんて意外だわ」
上坂さんは、「そうですか?」と言いながら、資料を持ち帰るように手で示した。沙綾さんはそれを拒んで、さらに資料を突き出した。
「PDFでもらうわ。森田さんも持ってるんでしょ?」
上坂さんは「ええ、まあ」と言いながら、沙綾さんが突き返した資料を鞄に仕舞う。彼女が突っぱねたことと、上坂さんが資料を片付ける様に笑う要素は微塵もなかったけど、つい口元が緩んでしまう。
沙綾さんは私の顔を見て、一瞬ニヤリと笑うも、すぐに口元を指して表情を戻せと促してくれた。
「でもさ、森田さんも性格悪いよねぇ。とんでもない企画じゃない?」
沙綾さんはボソッと呟いて、アイスティーに口をつけた。資料を仕舞い終えた上坂さんは顔を上げながら、「そうですか?」と言った。
「私は、映像学部の胸を借りる良い機会だと思いますけど」
彼女の冷静な視線が、私の胸元に突き刺さる。
「それにしたってねぇ?」
沙綾さんが私に代わって返してくれた。
「私ごときでは相手にならない、と?」
「いえいえ、そんな。才能豊かな先輩と競えて大変光栄です」
「良いねぇ。やる気満々じゃん」
やると決まったからには、負けられない。森田さんのお膳立てにそのまま乗っかるのは面白くないけど、その思惑すら飲み込んでやろうじゃない。
隣の沙綾さんも両方の企画に関わる当事者、両作に出演するキャストという最も大変な役回りだろうに、随分楽しそうに笑っている。私と上坂さんの間に漂う緊張感も、彼女には日々を楽しくするスパイスに過ぎないらしい。
「まあ、明確な勝ち負けなんてないんだし、お手柔らかに」
自信に満ちた笑顔で、右手がスッと差し出される。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私はその手を、グッと力一杯握り締めた。上坂さんは表情一つ変えることなく、グッと握り返してきた。企画の意外性に通じるような、見た目に反する力強さだった。
彼女はスッと握手を解くと、腕時計に目をやった。
「そろそろ帰らないと」
彼女は鞄を肩にかけた。私たちも荷物を持って、腰を上げる。伝票は沙綾さんが摘み上げた。ほぼ手ぶらの彼女が先に行き、私たちはその後をついてレジに向かった。