ショッピングモールの出入口に近いコメダから出て、比較的賑やかなフードコートの前を右に曲がる。サーティーワンの甘い匂い、隣のジューススタンドの匂いもちょっと心魅かれる。さっきまでコメダでシロノワールと向き合ってたんだから、別腹も何もなさそうなんだけど。
スタバの手前にある久世福商店でも、「父の日フェア」と題して、お酒やツマミが並べられている。前を歩いていた浪川さんは歩みを止め、並べられているお酒を手に取った。
「父の日って、なぁ〜んか節操ないよなぁ」
「そうですか? 母の日も、バレンタインも、割とそんな感じですけど」
イオンモールの中は、どこもかしこも「父の日」にかこつけて、食品から嗜好品からファッション雑貨、家具から家電まで売り付けようとしている。母の日もバレンタインもそれぞれ、「コレ」というコアはあるものの、節操のなさは大して変わらないような気がする。
「でも、母の日はカーネーション、バレンタインはチョコって一応あるだろ? 父の日にネクタイとかお酒はまだ分かる気もするけど、甚平とか帽子とか、ただのシーズン先取り展開だろ?」
いつの間にか、当たり前のようにディスプレイされていて違和感を微塵も感じないが、そう言われればそんな気もする。とは言え、6月の中旬を過ぎて夏を先取り、っていうのもファッション的には売れ残りな気もする。
浪川さんは独りで色々眺め、商品を戻して前に進んだ。今度は左手のリカーショップの前で立ち止まる。
「父の日、なんかやるんですか?」
彼は店頭のディスプレイを眺めながら、「いいや、何にも」と言った。
「オレがやらなくても、瑞希か晃がやるさ」 彼は僕の方を見て、「どうせ、君もやらないんだろう?」と言う。僕は返す言葉が思い付かず、言葉に詰まった。
「オレはただ、面白そうな酒が安かったら買おうと思って、見てるだけ」
浪川さんは立ったり座ったりしながら、店頭に並べられたお酒やおつまみを一つずつ入念に確かめていく。出先のお昼休憩とはいえ、のんびりアレコレ見過ぎではないかと心配になるぐらい、お店の中まで入っていって、隅々まで眺め倒している。
僕は腕時計に目を落とした。そろそろ戻らないと、午後の仕事が始まってしまう。クラフトビールを見ていた浪川さんに声をかけた。
「おお、すまん、すまん」
彼はビールをいくつかピックアップして、レジに向かう。パパッと会計を済ませ、袋に詰めてもらってお店を出る。リカーショップの先にある出口から屋外駐車場に出て、彼が止めた車のところまで戻った。
先日乗ったのとは違う社用車の助手席に乗り込んだ。浪川さんはシートベルトを閉め、ルームミラーを確かめる。さっき買った荷物は、いつの間にか後部座席に置いてあった。
「大学じゃなくて、Mサイズさんのオフィス下でいいんだっけ?」
僕が頷くと、彼は「了解」と車を発進させる。今から千里中央へ戻る彼にとっては逆方向に送ってもらう。あっという間に着くはずだ。寝てしまわないよう、グッと力強く拳を握りしめた。
第10話 6月15日(木)


読了見込 5分
初稿公開 改訂
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長谷川 雄治
kamenwriter01
昭和63年生まれ。大阪電気通信大学 総合情報学部 デジタルゲーム学科卒。
2011年からWeb制作に従事。コーディングやWordPressのカスタマイズ等を主に経験し、2013年、仮面ライターとして独立開業。マーケティングや企画にも口を出し、上流も下流も関わりたいヘンな人。
執筆活動は2001年前後から。
休止期間を挟むものの、四半世紀近くに渡る。