2月5日(日)

 沙綾から1日早い誕生日祝いを受け、そのまま彼女を東京へ送り出して帰路に着くタイミングで、瑞希からのメッセージ。バイトが終わる19時頃に太田のイオンタウンへ来い、と。
 茨木で降りず、JR総持寺駅で下車して、府道126号に沿って歩いていく。国道171号線の交差点に突き当たっても、横断歩道を渡り、そのままイオンタウンへ真っ直ぐ向かった。
 瑞希はいつものスタバじゃなくて、中のサイゼリヤまで来い、先に中で待っていると送ってきた。言われた通りに、イオンの中の店舗へ足を踏み入れる。新規客の案内に出てきた店員を制し、先に通されているはずの瑞希を探す。
「一兄、こっちこっち」
 先に僕を見つけた瑞希がソファから身を乗り出して、こちらに手を振った。その隣に誰かいる? 瑞希の隣に座った男がこちらに振り返る。
「えっ?」
「あ、どうも。こんばんは」
 武藤さんのところの学生くん、哲朗くんがそこにいた。なぜキミが、瑞希の隣に?
「ド派手な彼女さんは?」
「さっき、新大阪まで送ってきた。もうそろそろ、京都に着くんじゃないか?」
 二人の向かいに座る。二人の前にはすでにドリンクバーだの、辛味チキンだの、軽い食事が並んでいる。近くまで来た店員さんにメニューをもらい、その場でグラスワインの赤を注文した。
 哲朗くんに視線を置いたまま、目の前に置かれた水を口に含んだ。隣の瑞希が口を開いて、「哲朗さんにも、お祝いしてもらおうと思って」と言った。
「お祝い?」
 瑞希は横に置いた大きな包みを持ち、哲朗くんと共に差し出した。
「お誕生日、おめでとう」
 「ございます」と哲朗くんは付け加えた。とりあえずプレゼントを受け取り、入れてきたらしい紙袋も渡してもらった。
「この間、エキスポシティで一緒に映画見て、一兄の誕生日プレゼント探しにも付き合ってもらって」
「僕もお世話になってるんで、この間のお礼も兼ねて、半分出させてもらいました」
 哲朗くんの言い分は、半分くらい理解できる。その前提の瑞希の説明が飲み込めない。詳しい説明を訊きたかったのに、彼女は「ちょっとトイレ」と席を外した。哲朗くんは、気まずそうに身体を小さくして目線を逸らしている。
「なんか、成り行きでこういう感じに」
 消え入りそうな声で「すみません……」と付け加えた。できるだけ落ち着いて聞こえるように、ゆっくりと訊く。
「いつから?」
「今月の一日から。やましいのは、一切ないです」
 「ないんですけど」とまた下を向きながら呟いた。真相を追及しても仕方ない。自分を守るためにも、「良いお友達」でカッコに括ろう。
 ちょっぴり気まずい沈黙の中、あっけらかんとした瑞希が楽しそうに戻ってくる。入れ替わる形で、哲朗くんがグラスを持ってドリンクバーの方へ向かう。瑞希は鼻歌を歌いながら、目の前のアイスコーヒーに口をつけた。僕はやっと出てきたワインを一口飲んだ。
「おお、哲朗くん」
 入り口の方から、最近耳に馴染んできた人の声がする。哲朗と共にこちらにやってくるのは、ご家族を伴った武藤さん。
「あれ、浪川くん。もう哲朗くんと仲良くなったの?」
「ええ、まあ……」
 瑞希は武藤さんの後ろにいた男性に、挨拶したらしい。武藤さんは瑞希と哲朗くんに注視しているが、店員に促されて自分たちの座席へ向かう。
「また今度、話聞かせて」
 哲朗くんはさっきより一層気まずそうな雰囲気で、ゆっくりと瑞希の隣に腰を下ろした。僕もどことなくその空気に飲まれる形で、ちょっぴり沈んだ気持ちになる。僕らの落ち込みなんて微塵も感じていないらしい瑞希は、「次、何食べる?」とメニューを広げた。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。