12月31日(日)午後0時

 なんちゃっておせち作りにも区切りを打って、キッチンを旦那に明け渡す。どうしても作っておきたいものは一通り済んだし、どうせ、お互いの実家を行き来して適当に摘むから、今のところは自分たちの食べたいものと、作りやすいものさえ作ってしまえば、それでいい。
 義実家の味は義姉さんが受け継いでるし、実家の方で受け継ぐべきレシピはせいぜいお雑煮ぐらい。どうしても食べたかった時に、記憶を辿って作れたこともある。どうしてもというものがあれば、牧人の奥さん、桃子さんに頑張ってもらおう。
 康徳さんの手で、主に子供向けのカレーが作られていく。お昼を済ませたら、あとは明日のお雑煮用の準備と、夜のお蕎麦が段取りできれば十分。午後は子供たちを連れ出して外へ行ってもらうし、時間ができれば年内最後のお絵かきまでやれればベストではある。
「明日は何時着だっけ?」
 康徳さんはルーを鍋に割り入れ、お玉でかき混ぜながら言った。私はスマホを取り出して、母とのやりとりを確認する。
「えーっと、お昼前ならOKだって」
「お昼前、か。泊まれるなら今晩行っちゃう方が楽な気もするけど、それはダメなんだよね?」
 私が頷くと、彼は「そっかー」と言いながら、鍋の様子を見て火を点けた。だんだん、カレーの匂いが強まってくる。
「布団が足りないんだって」
「じゃあ、仕方ないか」
 私は彼の動きに合わせて、食器とご飯を用意しようとする。彼は「あー、いいよ。ゆっくり座ってて」と私に食卓へ座っているように勧めた。
「朝から動きっぱなしだろう? 昼ご飯ぐらい、僕に任せて」
 彼はカレーが焦げ付かないようにかき混ぜながら、ご飯や食器の準備を進める。娘たちのスプーンも並べ、ドリンクも用意した。匂いに誘われた娘たちが、準備がバッチリ整った食卓へやって来る。
 私は二人を連れて、洗面所へ移動した。彼女らと手をしっかり洗い、食卓に戻る。康徳さんは、私たちが戻って来るタイミングに合わせて、配膳を終えた。娘たちを椅子に座らせ、「いただきます」と食事を開始する。
 今日のカレーも、いつも通りにちゃんと美味しい。明日明後日とおせちに飽きても、このカレーが待っているのは心強い。
「明日の朝からだと、めちゃくちゃ混みそうだよね」
 康徳さんはカレーを口に運びながら言った。道路状況は確かに、彼のいう通りだろう。とはいえ、今日もすでにそれなりに混雑しているとも聞く。
「思い切って電車、も混むよね。多分」
 私はそれにも頷いた。頑張って電車で行ったとしても、恩恵はほとんど受けられない。行きも帰りも手間が増えるだけ。だったら、飲めないドライバーさんには申し訳ないけど、渋滞を覚悟で車を選んだ方が賢明な気がする。
「めちゃくちゃ早い時間に出発して、どこかで時間調整する?」
 康徳さんは、「二人が寝ている間に車に乗せてさ」と付け加えた。
「早くって、何時ぐらい?」
「六時じゃあんまり変わらない気がするから、五時とか?」
 五時か。早めに寝れば無理な時間ではない。ただ、そんな早くに出たとして、時間調整するような場所があったっけ?
「一応、ダメ元で聞いてみるね」
 私はそう言いながらスマホを取り出して、母にメッセージを送ってみた。カレーを食べている間に、「早くても大丈夫だよ」と返事が来た。
「お父さんが起きているから、来てくれても大丈夫、だって」
 康徳さんは「そっか、そっか」と頷いた。父も老いたとは言ってたけど、もうそんな調子だったとは。私は、「じゃあ、そのつもりでよろしく」と母に返信した。

(完)

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。