6月4日(日)
朝日が登ってから一度目が覚めて、なんとかトイレに行ってベッドへ戻ってきた、ような気がする。それから大分長い時間寝てた気がするけど、外はまだ明るいらしい。まだ少しクラクラする頭を支えながら、枕元のスマホに目をやった。時刻は午後2時。流石にちょっと寝すぎだろ、オレ。
ベッドの上でジッと座っているだけなのに、なんだか揺られている気がする。油断していると気持ち悪さが一気に頭を占領しそうだ。フラフラしながらもゆっくり立ち上がり、脱ぎ捨ててあったズボンを履き直した。ドアを開け、キッチンへ移る。
我が家の小さな食卓で、上坂さんはビールをお供に、先日渡した「ヒイラギ」に目を落としている。ようやく僕に気がついたらしく、雑誌を閉じて僕の方を見た。
「やっと起きたか」
「なんでキミがソコに?」
「なんで、とは失礼ね。留守番しててあげたのに」
「留守番?」
彼女はコップに水を入れ、僕に差し出しながら、「何にも覚えてないんだね」と言った。彼女によれば、僕はカギを開けたまま玄関で寝ていて、彼女の介抱によりベッドまで移動して、この時間になるまで寝ていたらしい。
家の鍵をかけて帰ろうにもどこにあるか分からなかったから、無人になるよりは、とここでビールを飲みながら雑誌を読んでいた、とか。
「それは、失礼しました」
僕は頭を下げようと思ったが、下を向いた瞬間に気持ち悪さが込み上げてきた。もう吐き出すものは残っていないらしく、一瞬口元に手を添えただけで、なんとか治った。
「二日酔いなのに、無理しないでいいから」
「二日酔い?」
そう言われれば昨日、というよりは日付が変わってからもガンガン飲まされたような。午前様で部屋には帰り着いたけど、途中で力尽きたのか。上坂さんは水を飲むように促した。
「とにかく、水を飲んで出す。あとは寝てたら何とかなるから」
「ありがとう」
彼女に誘導されるまま、水を飲み、起きがけのトイレを改めて済ませる。ちょっとずつ楽になってきた気はするけど、まだ長時間椅子に座るのは厳しいようだ。
「起きたんなら、帰ろうかな」
彼女は自分の鞄に、「ヒイラギ」を仕舞った。
「何か用事があったんじゃないの?」
「二日酔いの人と、何かする気は起こらないな。今日のところは、出直すわ」
彼女はふぅ、と一息ついて立ち上がる。僕がそれをボーッと見ていると、彼女は振り返って身を寄せてきた。
「それとも、私にされるがままになる?」
彼女は僕の胸に手を置いて、さらに近寄る。二日酔いのドキドキか、別の理由で鼓動が早いのか、頭の処理が追いつかない。
「な〜んて、冗談冗談。ラムネとウコンの力は置いていくから、お好きにどうぞ」
彼女はカバンから、懐かしい青緑のボトルを取り出すと、食卓に置いた。ウコンドリンクは冷蔵庫にあるらしい。彼女は自分が飲んでいた缶ビールを飲み切ると、空き缶を片付けた。
「そうそう、ゴムとか雑誌とか、もうちょっと上手に隠してね」
彼女は僕に振り返ってそれだけ言うと、カバンを持って出て行った。彼女の残して行ったラムネを素直に口にするか引っ掛かったけど、ブドウ糖の塊を口に放り込み、冷蔵庫のウコンドリンクをグッと一気に飲み干した。プラセボだろうけど、ちょっと気が楽になってきたけど、今度は違うところで気が重くなってくる。とりあえず、玄関の鍵を内側から掛けた。