12月31日(日)午後9時

 JR茨木にバスが到着した。どうやって帰るか散々悩んだ結果、朝と同じルートで帰ってきた。朝と違うのは、目の前の階段でデッキに上がり、改札まで行ったところでみぃちゃんと離れること。
 僕は大きな紙袋を抱えて、先を行くみぃちゃんの背中を追いかける。みぃちゃんは上まで行って立ち止まり、後ろを振り返った。
「一つぐらい持とうか?」
「全然気にしないで。大丈夫、大丈夫」
 僕は両手の袋を高く持ち上げて、彼女に「へっちゃらだ」とアピールした。大きさや形から来る独特の持ちにくさはあるものの、重さはそれほどでもない。みぃちゃんは僕が隣まで来るのを待ってから、駅の方へ歩き始めた。
「本当に、駅までで大丈夫?」
 僕が心配のあまりそう訊くと、彼女はケロっと「大丈夫、大丈夫」とさっきの僕を真似して言った。
「駅からはすぐだし、あなたが無駄に往復する必要ないし」
 彼女はさっきも、「バスの方が安上がりでしょ」と一輝さんたちを駅で見送りながら、この帰り道を選択した。
「それに、家まで見送ってもらったら、そのままウチで待ってもらうことになるけど、それは辛いでしょ?」
 彼女は笑いながら言った。彼女のご両親に特別嫌われているとは思わないが、特有の緊張感は捨て切れない。お義父さんから熱い歓迎をされるのも、それはそれで辛い。彼女の誕生日にしこたま飲まされたのを、まだ鮮明に覚えている。
「そっちはそっちで準備があるだろうし、今はここで解散しよう」
 駅の構内に入ると、彼女は僕の手の中から一番小さな紙袋を取り、改札へ向かった。もう少し引き止めたい僕の気持ちを振り切るように、「あとの荷物はよろしく」と言い残して改札を通って行った。次の電車が入ってきたらしく、あっという間にホームの方へ姿を消した。
 僕は大きな荷物を持たされたまま、彼女が消えた方向を見つめていた。すぐに降りてきたお客さんで改札の前がいっぱいになる。僕は邪魔にならないよう、大きな荷物を持ったまま東口から駅を出た。みぃちゃんを乗せた電車は、あっという間に総持寺の方へ向かって発車する。
 クリスマスのイルミネーションが残るココで、茫然と立ち尽くしている暇はない。さっさと帰って、再び出かける準備をしなくては。事前にどんなもんか確かめるべく、オフィスの方へ足を運ぶ。
 普段もそれほど賑わっているとは思えない駅前商店街だけど、今日はさらに活気が少ないようだ。平日の深夜ぐらいの雰囲気に、「やっぱり最後まで送ればよかったかな」と今更ながら、みぃちゃんのことを考えてしまう。彼女は彼女なりに、無事に家に帰り着けると言い聞かせながら、オフィスの前を通り過ぎて市役所の方へ歩みを進める。
 公園前の交差点で、一度向かいの歩道へ渡った。帰宅には余計な遠回りになるけど、左手にこの後の目的地がある。普段は閑散としているありふれた神社だけど、今日は出店がズラッと並んでいた。流石にまだ早くて人もそんなにいないけど、年越しの前後から人が集まってくるのだろうか。
 僕は楽しそうな雰囲気に後ろ髪を引かれながら、この後の予定を思い出して、その場を後にした。23時半までにウチへ再集合して、そこから初詣に出かける。今度はダブルデートではなく、みぃちゃんと二人きり。
 今更、誰かに見られたらどうしようと、妄想が加速する。とりあえず風呂に入って落ち着こう。彼女から預かった荷物も、洗濯物も、しっかり片付けておかないと。こんなにバタバタな大晦日、初めてだけどめちゃくちゃ楽しいな。

(完)

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。