12月24日(日)

 啓と智希に一つずつケンタッキーのバケツを持たせ、えっちらおっちら、ようやく阪急の線路を潜るところまで来た。ちょうど目の前を両側から阪急電車が行き来する。信号待ちをしていた啓が微かに喜んでいた。
 隣の智希も、ついこの間まで電車に興奮していたように思うが、流石に中学生ともなると見慣れた電車には冷静な反応を示すか。
 ガード下を抜け、真っ直ぐ大同町へ抜ける方が早いが、歩きやすさを考慮して水尾の方から迂回するルートを選ぶ。この辺りを歩き慣れていそうな智希に、少しだけ先を歩いてもらう。
 元茨木川緑地に沿って少し進んだところで、住宅街の方へ曲がった。細い道を抜けると、少し広い道路と大きな公園が見えてきた。智希はスッと公園の中へ入ると、グルっと周遊しそうな散歩道に足を踏み入れる。
 小高い丘で遊んでいる子供達や、向こうの方でキャッチボールやミニサッカーに興じている小学生も見えた。啓は羨望の眼差しでそちらを見ているが、智希は歩調を緩めることなく、前へ前へと進んでいく。
「啓も居るんだし、もうちょっとゆっくり歩いたって良いんじゃないか?」
 私は智希の背中に声をかけた。智希はこちらを一瞬振り返る。
「でも、あんまり冷めたら良くないし」
「それはそうだが、さすがにちょっと早い気がするぞ」
 智希は「そうかなぁ」と呟きながらも、少し歩幅を小さくしてくれた。彼や彼の愛犬との散歩に付き合うときは今ぐらいのペースだが、啓には少し早い。啓が無理なく付いていける速度にしてもらいながら、水尾図書館が見えるところまでやって来た。図書館には背を向けて、フレスコの隣を真っ直ぐ目の前の信号を目指して抜けていく。
 団地の向こうにも公園があるらしく、賑やかな声が聞こえてくる。啓はそちらにも興味津々、未練たらたらの様子で智希の後を追いかけて足を動かしていた。
「遊びたいんなら、寄り道しても良いんだぞ」
「良いよ。さっきも散々遊んだし」
 智希の即答に、啓は何か言いかけた口を閉じた。確かに受け取りに行く前に、岩倉町の広い公園で散々走り回ったが、啓はまだまだ物足りないのだろう。同時に、智希に嫌われたくないメッセージも、啓の小さな身体からビンビンに放たれている。
「遊ぶなら、持って帰ってから遊ぼうよ。外は寒いし」
 今から公園に繰り出したところで、スペースも早々空いていない。小さなゴムボール1つで小学生を相手に中学生が延々と遊ぶには限界もある。私がもっと動ければ多少は違うのだろうけど、せいぜい荷物板ぐらいが関の山。
 啓は智希の「家で遊ぼう」の誘いに乗ったらしく、若干遅くなっていた歩きに力強さが戻ってきた。智希はそれを見て、歩く速度を少し早める。若園町の交差点を真っ直ぐ進み、水尾小学校の裏に抜けた。
 道が不規則に入り組んだ住宅街の中に入り、智希の案内でどんどん幸弘たちの家に近付いていく。見覚えのある通りに出ると、聞き覚えのある犬の泣き声が聞こえてきた。智希の愛犬が、上から私たちに向かって吠えている。
 周りの家の飾り付けを見ながら、今日がクリスマスイブだと痛感する。孫に手を引かれながら、家族の集う息子宅に帰ってきた。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。