12月31日(日)午前6時

 家を出た時には濡れていたアスファルトも、一時間ちょっとの間にだいぶ乾いてきた。河川敷も普段より湿ってはいたが、歩きにくいと言うほどではない。それよりも、気温の方が厄介だ。風もそれなりに強く、早歩きで体温が上がったはずなのに、汗のおかげで散歩する前より冷えてしまったように思う。
 帰る前に、ホットコーヒーでも飲んで帰ろう。JR総持寺の駅を抜けて、ファミリーマートに足を踏み入れた。店内をぐるっと周り、今朝の食パンがなかったのも思い出して一緒に買うことにした。コーヒーは、ホットドリンクコーナーのペットボトルの奴にしよう。
 会計を済ませ、イートインのコーナーに向かうと、先客が机に突っ伏して寝息を立てていた。間に一つ空けて椅子に座ると、顔が見えた。浪川さん家の次男坊、晃くんだった。
 私がビニール袋をガサガサさせながらコーヒーを取り出していると、晃くんがゆっくり身体を起こした。眠そうに大きな欠伸をしながら、身体を伸ばしている。彼は片目を瞑りながら、私の方を見た。私に気がついたらしく、「あ、おはようございます」と言った。
 私は「おお、おはよう」と返した。彼は、手元にある飲みかけのペットボトルを手に取り、蓋を開ける。
「早いですね」
 彼は中身を飲み、口を湿らせてから言った。喉はまだ十分に開いていないらしい。
「ジジイだからね。君は、朝帰り?」
 晃くんは欠伸を噛み殺しながら頷いた。
「もうちょっと行けば自宅だろう? どうしてこんなところで」
「極楽湯でひとっ風呂浴びてから帰ろうと思って」
「ああ、なるほど」
 河を越えれば、道路脇にある。土日は午前六時からだったっけ。ゆっくり入浴してから帰ったら、七時ぐらいか。変な時間に朝帰りされるよりは、そっちの方がいい。
 しかし、そもそも今日は空いているのだろうか。晃くんが水分補給している間に、スマホを取り出して検索を掛けてみた。年末年始の営業にはなっているものの、土日扱いでオープン自体はしているらしい。
 散歩で私も汗まみれ。一緒に行きたいぐらいだが、買ってしまった食パンはさっさと持ち帰った方がいいだろう。少なくとも、銭湯には持って行かない方がいいように思う。
「あ、もう開いてる?」
 晃くんは時計に目をやって呟いた。スマホを仕舞う前に時刻を確かめたら、確かに六時を過ぎている。晃くんは気怠そうに座ったまま身体をほぐし、ペットボトルに残っていた水分を飲み切った。
 椅子から立ち上がると、店内のゴミ箱に空になったそれを放り込んだ。
「じゃあ、オレはこれで」
 私は晃くんが出ていくのを、その場で見送る。晃くんは、「あっ」と声を出して、一瞬立ち止まった。
「良いお年を」
「あ、ああ。良いお年を」
 彼はすっきりとした表情で、コンビニの外へ出て行った。彼と入れ替わる形で、一瞬、外のひんやりした空気が店内に入ってくる。私はだんだん温くなってきたコーヒーを一口飲み、まだまだ残っているところに蓋をしっかり閉め、ビニール袋に入れ直した。
 イートインの椅子を片付け、コンビニを後にする。帰宅したら、まずは朝食を摂って、志津香の邪魔をしないように、洗車でもしに行こう。正月用のお酒も、忘れずに買いに行かねば。

(完)

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。