1月15日(日)

 2023年、令和5年。年明けがまだ2週間前というのがウソに思えるぐらい、身の回りで大小様々な事件が起こる。福男絡みで新人がテレビに見切れたらしいアンドウさんのところからは、仕事の相談がひっきりなしに飛んでくる。
 おかげさまで日曜日だというのに、バイトの学生くんも出社してくれて、詰まり気味の仕事をどんどんこなしてくれている。しかし、このバイトくんもバイトくんで、話題を欠かさないサービス精神を持っていた。
「哲朗くん、本当に心理学部生になるの?」
「ええ、まぁ」
 哲朗は返事しながらも、目はモニターから動かさず、指はキーボードを叩いている。
「ちゃんとご両親に相談した?」
「えぇ、まぁ」
 哲朗はさっきと同じトーンで間を置かずに返してくる。
「可能なら、大学院とかその先も考えてたり」
「カウンセラーとか、学者志望だっけ」
「人の根というか、気持ちを追究したくって」
 哲朗の手が止まり、顔がこちらに向けられる。同時に「ご確認、よろしくお願いいたします」と哲朗からのメッセージが飛んできていた。すぐに森田さんが反応を返し、チェックに入ってくれる。
「神学でも経営学でもないってところが、君らしいよ」
 森田さんのOKが出て、とりあえず一案件ケリがついた。最終着地は明日で、最後に一悶着あるかもだけど。一息ついて身体を解している哲朗と、次の案件について打ち合わせを、と応接スペースに目をやると手前の席でMacbookを叩いていた香織が、少々強めにエンター機を押した。
 香織は「ふぅ」と一息つくと、自分の持ち込んだ荷物を片付けていく。炭酸水のペットボトルと自分のパソコン、電源コードをカバンに詰め込み、帰り支度を整える。自分のスマホを弄りながら顔を上げた。
「ルミちゃんが、お兄さんによろしくって」
 香織はコートをハンガーから外しながら、自分の席に座ったままの哲朗の方を見る。
「次は哲朗くんだね」
 哲朗は口角を上げながら、乾いた声で「お手柔らかにお願いします」と答えた。香織はコートを羽織り、カバンを手にオフィスを後にした。それを追いかけていた哲朗に視線を送る。iPadを持って立ち上がり、応接スペースを指し示す。
「打ち合わせ、良い?」
「ああ、はい」
 哲朗はノートとペンを持って立ち上がる。応接スペースの椅子に向かい合って座る。iPadでブラウザを立ち上げ、見せたいサイトの読み込みを待つ。
「哲朗くん、誕生日いつだっけ?」
 哲朗はペンをいじりながら、「今月の末、31日です」と答えた。
「もうすぐだ。流石に誕生日ぐらいは帰るんだろ?」
「いやぁ、先約が入っちゃって……」
 目の前の青年は、香織への返事とあまり変わらないトーンで言う。母親譲りの柔和な雰囲気と優しそうな目で、僕の説明を従順に聞いてくれている。
「俺、仕事、振りすぎてる?」
「いやいや、全然そんなことないです」
 哲朗は手振りも添えて否定する。「むしろ、もっと振ってください。勉強になります」と付け加えた。
「本当にちゃんと帰るんで」
「そう? じゃあ、頼んだよ」
 哲朗との打ち合わせを終えると、彼は自分の席へ戻って行った。新しい案件の資料を確認していく。彼の母親、明子さんからの連絡にどう返信するか考えながら、僕は自分の席に腰を下ろした。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。