12月31日(日)午後6時
おせちを作るのに邪魔だからと、昼過ぎから家の中にいた智希と共に追い出された。年末にやることと言えば洗車だろうと、割安のセルフの洗車場へ行ってみると、考えることはみんな一緒だったらしく、我々と同じような親子連れでごった返していた。
混み合っている中、なんとか男二人でザッと掃除して戻ってきたものの、まだ少し早い気もして、寒いのを我慢しながら車の中を片付ける。ザッとゴミを拾って、ハンディの掃除機で拾い切れない汚れを取る。智希には硬く絞った雑巾で車内を手当たり次第拭いてもらった。陽も暮れてきたし、「適当でいいぞ」と智希に声をかけて掃除を打ち切った。
掃除するために引っ張り出した道具を、一つ一つ元の場所へ片付けていると、門を開く音が響いた。智希が、「おかえり」と声をかけている。
「おかえり。早かったな」
玄関前には、コートとマフラーを付けた陽菜が立っていた。彼女は僕へ返事をすることなく、こちらを一瞥して家の中へ入って行った。僕がぼんやり突っ立っていると、智希がバケツや掃除機を持って、「お父さん」と声をかけてきた。
「おお、ありがとう。中へ入ろう」
僕がドアを開け、智希を先に中へ入れた。彼が靴を脱ぐスペースを確保しながら、後ろ手にドアを閉める。家の中とはいえ、玄関や廊下は少し肌寒い。掃除用具の収納は智希に任せ、僕は一旦リビングへ向かう。
陽菜は自分の部屋に籠っているらしく、リビングにその姿はなかった。
「あら、おかえり」
史穂はまだ、キッチンで忙しそうにしていた。換気扇を全力で回しながら、点けっぱなしの年末特番を時折眺めている。音量を上げないと満足に聞こえないだろうに、一度、「余計なお世話だ」と言われて以来、何もしないようにしている。
時計を見上げると、午後六時。晩ご飯やら紅白やらには、まだ少し早い。キッチンの稼働状況や食卓の上に並んだ大小様々なタッパーを見る限り、もうしばらく外に出ていた方が良さそうだ。
いつの間にか洗面所で手を洗ってきたらしい智希が、微妙に濡れた手を乾かすように、鍋が上に乗ったストーブの前に行く。史穂に嫌な顔をされながらも、そこで暖を取りながら時計を見上げる。
「あ、テディの散歩」
智希が呟くまで、すっかり忘れていた。夕方の散歩がまだ終わっていない。智希は手慣れた手付きで散歩に必要なものを用意する。リードを持って、テディのケージがある上の階へ、階段を上がって行った。
「陽菜も一緒に連れて行ったら?」
史穂は手を動かし、鍋の状況を確かめながら言った。
「手伝わせなくても良いのか?」
僕の問いに、史穂は「邪魔にしかならないから、連れて行って」と言った。何がなんでも、ってことらしい。
僕は先に上へ行った智希の後を追いかけて、子供部屋の方へ上がる。階段の向かいの部屋からテディを抱えた智希が出てきた。彼は隙あらば逃げ出そうとするテディを上手に制しながら、「アレ?」と僕を見て言う。
「お姉ちゃんも連れて行けってさ」
「ふーん。じゃあ、先に降りてるからよろしく」
彼はテディを抱えたまま、慎重に階段を降りていく。僕はその後ろ姿を見送りながら、陽菜の部屋のドアを三回ノックした。
(完)