1月10日(火)

「小野寺さん、平和堂のところまで来たよ」
 武藤さんが顎で信号を示した。
「あそこのマクドナルドまで」
「分かってる、分かってる。もうちょっとだけ頑張れ。笠井さんは、もう良いですよ」
 私の背中に手を添えてくれている笠井さんは、首を振って「最後まで付き合います」と眼鏡の向こうの優しそうな目を細めて答えてくれた。穏やかで優しい雰囲気の笠井さんがめちゃくちゃイケメンに思える。などとぼんやり考えていたら、肩を貸してくれている武藤さんが、「さぁ、歩いて」とグイグイ安威川の方へ歩かせてくれる。
 二人のおじさんに支えられていると、だんだん足に力が蘇ってきた。信号がまだ二つ三つあったのに、あっという間に北摂つばさ高校前のマクドナルドに辿り着いた。
「本当にここで良いの?」
 武藤さんはお店の中まで連れて行ってくれて、ゆっくりと私を座らせてくれた。笠井さんはコーヒーと水を持ってきてくれた。
「ああ、すみません。お代」
 財布を探してカバンに手を伸ばしたのに、笠井さんは「いい、いらない」と言う。私の向かいに腰掛けた武藤さんは、笠井さんに両手を軽く合わせて、「付き合わせちゃって、すみません」と言った。
「いえ、どうせ帰り道ですし。沢良木の市営住宅あたりなんで」
「ああ、それで。じゃあ後は僕が見てるんで、また『にしじま』か『かどや』で」
 「それじゃあ、よろしく」と頭を下げ、笠井さんはお店を出た。武藤さんは自分のコーヒーも注文してくると、再びどっかりと向かいに座った。しきりに水を飲めと勧めてくる。
「武藤さんも、すみません」
「いやいや、ウチの妹が無理やり飲ませちゃってたでしょ。ペースも考えないで」
 武藤さんの妹さん?
「夕方に帰った、高橋香織。アレ、実の妹」
「え、そうなんですか?」
 そう言われると、目元というか、全体の雰囲気は似ていた気がする。武藤さんは通知のなったスマホを見て、申し訳なさそうな顔を私に向ける。
「ごめん、妻が『まだか』って送ってきちゃって」
「あ、私のことはお気になさらず」
 「じゃあ、とにかくお水飲んでね」と言って、武藤さんは自分のカップを持った。奥さんによろしくお伝えください、と遠ざかっていく背中に伝えると、片手を上げた身振りが帰ってきた。
 水が入った手元のカップを口元に運び、ぼんやりと外を眺める。デリバリーから戻ってきた店員さんは、ほんの数分で私服に着替えてバックヤードから出てきた。デリバリーの制服を着ている時は気がつかなかったけど、見覚えがあるような……。
「もしかして、ルミ?」
 マクドナルドの店員さんはこちらをジッと見て私の名前を呟いた。その声にも聞き覚えがある。
「彩夏?」
 彩夏は小さく頷いた。通行の妨げにならないよう、私の方へ体を寄せる。彼女に「今、実家?」と尋ねると、「そっちは?」と質問が返ってくる。否定も肯定もない沈黙の後、彩夏は「じゃあ」とお店を出ていった。
 彼女と入れ替わりに店内へ吹き込んだ冷たい空気に、頭が少しずつ冴えてくる。とりあえずコーヒー飲んで、トイレ行こう。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。