12月31日(日)午後1時
スーツケースを引きながら、三階までエスカレーターで上がる。頭上の、年季の入ったからくり時計は、2体のピエロが13時ちょうどをお知らせしてくれた。お店の名前が変わっても、大規模な改装工事が入っても、ずっと残っている。
動いている姿も見られてなんとなくジーンと来ていると、フードコートの方から声がかかった。そちらを見ると、透と奥さん、お子さんがご家族でお昼ご飯を食べていた。
「大層な荷物だな。今から旅行か?」
透は後ろのスーツケースを見て言った。私は、隣の奥さんに「こんにちは」と会釈をする。微妙な気まずさを感じながら、私は首を振った。
「二、三日、実家に泊まるだけ」
「それでその荷物?」
「うっさいなー。色々持っていくものがあるの」
私は透の追求をやんわりいなしながら、フードコートの空いた席を探す。買っていくものの目星はついたものの、まだ約束の時間には少し早い。買い物ついでにここで時間調整、と思ったけど、延々と透に付き纏われるなら、外に出て向かいのサイゼリヤにでも行こうかしら。
ザッと見渡してみると、お昼時の割には割と空いている。お昼ご飯は家で済ませてきた身で、椅子だけ借りてコーヒーを飲むのは気がひけるかなと思いきや、全然そんなこともない。適当に甘味を頼んで小腹を満たしても良い。
「隣の席、空いてるぞ?」
透は自分たちの隣を指差して手招きする。たとえそこしか空いていなかったとしても、わざわざそこに座りたくはない。
「気まずいから、良いって」
できることなら、こうやって言葉を交わすのも遠慮したい。最初から他人行儀に敬語で話せば良かったと、後悔している。透は私の気持ちを汲み取ることもなく、強引に自分たちの席へ連れていく。
「悪いんだけど、俺の代わりに家族を見てて」
彼は自分の席へ私を座らせると、彼はトレイを持って返却口の方へ向かった。私はスーツケースを邪魔にならないところへ移動させ、奥様の方へ向き直る。幼なじみの奥さんやお子さんと置いてけぼりは、非常に気まずい。
「強引に、すみません」
「いえいえ、こちらこそ」
奥さんが軽く頭を下げるから、こちらも合わせて頭を下げた。緊張に身体が自然に縮こまる。俯いていると、ベビーカーの中からお子さんが私をジッと見上げて来る。透の面影を感じながら、ジッと見つめられるのもめちゃくちゃ気まずい。
沈黙の最中、顔を上げると透が食器を返して戻ってきた。
「いやぁ、悪い、悪い。助かったよ」
彼は何事もなかったかのように、奥さんに「さ、行こうか」と声をかけ、ベビーカーのストッパーを外した。
「オレたちも今からお出かけでさ、バタバタなのよ」
彼はベビーカーのハンドルに手を置いて、周りを見ながら上手に通路へ出した。
「また来年、ウチに来いよ。お礼はその時にでも」
彼によって強引に座らされはしたけど、わざわざお礼をされるようなことはしていない。私は、奥さんと何か話をしている透に、「お礼なんて良いよ」と言った。
「奥さんにもご迷惑だろうし」
「そっか。悪いな」
奥さんは私に、「すみません」と頭を下げた。透は無関心な様子で「じゃあな。良いお年を」と、ベビーカーを押してフードコートを出て行く。奥さんはそれを追いかけた。随分前に切れたと思っていた腐れ縁も、どうやら来年以降も続くらしい。この厄介さを飲み込むには、甘味の一つでもお腹に入れなくては。アイスにするか、あんみつにするか、それが問題だ。
(完)