5月18日(木)

 夕食を終え、キッチンで洗い物をしていると、食卓に座ってテレビを見ている芽衣の身体がピクッと動いた。画面に目を向けると、彼女が追いかけているらしいアニメ作品の劇場版が明日から公開されるという告知、CMだった。
 アニメとはいえ、少々上の年齢を対象にしているからか、亜衣も映美も特に興味を示すことなく、テレビの前で遊んでいた。
 僕は洗い終えた食器を乾燥機に入れ、両手を洗って芽衣の向かいに座った。テレビは二十一時前の短いニュースを写している。
「明日からなんだね」
 僕は脇に置いた朝刊を手元に寄せた。適当に開いてみると、さっきの告知が新聞の下の方にも載っていた。紙面には明日以降の上映スケジュールは載っていないようだ。
「行かないの?」
 僕はなんとなしに芽衣に聞いた。彼女は頷いた。
「すぐ配信されると思うし、子供らのこともあるし」
 彼女は亜衣、映美の方へ視線を向ける。でも、声にはあまり元気がないように思える。
「子供は任せて、見てきなよ」
 僕は新聞を畳み、スマホを持った。作品名を検索すると、地元のイオンシネマでもかかるらしい。そのままスケジュールを見に行ったら、意外と日中の枠もある。
「茨木のイオンシネマでもやってるらしいし」
「え〜っ、茨木イオン?」
「エキスポシティのところでも、やってるってよ」
 僕は彼女にスマホの画面をむけた。まぁ、どうせ行くなら、生活圏内の茨木イオンよりは、もう少し遠いエキスポシティか。彼女は僕のスマホで上映スケジュールを確認すると、URLをコピーして自分宛にメッセージを送信した。
「母の日も何にもできなかったし、今月のおやすみデーもまだだし」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
 彼女はいつものように、「日曜日なら大丈夫だよね?」と確認すると、そのままスマホで座席を予約する。クレジットカードで決済も済ませると、ホクホクした顔で娘たちを眺めている。
 「たっぷりガス抜きしておいで」と僕が言い添えると、彼女は何か思い出したように「あ、でも」とこちらに顔を向けた。
「パパだけだからって、甘やかしすぎちゃダメだからね」
「分かってる、分かってる」
「なぁ〜んか、ガミガミいうのは私だけ、みたいになってない?」
 気のせいだと思うけどな。声に出していうとまた変なところを刺激しそうだから、曖昧な表情を浮かべて必死にごまかす。単純に接し方の違い、性格の違いなだけに思えるけど、「怖いオヤジ」に程遠いのは確かかも。
 そんな風になる頃には、この子らも思春期、反抗期真っ只中だろうなぁ……。
 僕がぼんやり娘たちの方を見ていると、芽衣は時計を見上げて、ハッとした表情を浮かべる。
「お風呂入れなきゃ」
 彼女は少々慌てて寝室へ上がっていく。キッチンの給湯器が、お風呂がもう間もなく入ると、音声で教えてくれる。娘たちもその音に遊びの手を止め、ママの準備を確かめると玩具を片付けていく。
 芽衣は、亜衣が片付け終えるのを待ってから、映美と亜衣の手を握った。
「じゃあ、入ってきます」
「よろしく〜」
 芽衣は二人の手を引いて風呂場に向かった。僕は二人が片づけきらなかった玩具をしまい、リビングに軽くフローリングワイパーをかける。さっきは水の音でよく聞き取れなかったテレビCMがよく分かる。今度の日曜日、僕らは何をしようかな……。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。