8月21日(月)
上映時間の兼ね合いで食べ損ねたお昼を、半券でちょっとだけお得に食べた。家族で出かけると選びがちな中華も、一緒に食べる相手が違うと新鮮味があっていい。普段は注文し辛いサイドメニューも頼んでしまった。
ちょっと食べ過ぎた気もしつつ、下へ降りる前にお手洗いに入る。用を済ませて鏡に写る自分の顔をみると、いつも通りの化粧っ気のない地味な顔。食べた後の汚れや崩れも特にない。しっかり手を洗って出ると、哲朗さんはトイレを出たところにあるクレーンゲームを眺めていた。
私が「待った?」と訊くと、彼は首を横に振った。そのまま、横に並んでいるクレーンゲームを一つ一つ眺めていく。
「何か、欲しいものでもあるの?」
「ぜ〜んぜん。うわ、まだこのキャラクター現役なんだ」
彼が満面の笑みを浮かべて指を差した大きなぬいぐるみは、私もどこかで見覚えがある。十年、それより前から居るような気がする往年のスター選手。最近の人気アニメのグッズやら、クレーンゲーム限定っぽいお菓子に混ざって、海外アニメの人気キャラクターやら、某ゲーム会社の敵キャラ、ネコっぽいキャラクターのご当地っぽいものまで色々並んでいる。
グルグル回るお菓子をキャッチするゲーム機やメダルゲームの間を縫って歩きながら、哲朗さんは小さく頷いた。特に未練もないらしく、スッと下へ降りるエスカレーターに乗った。置いて行かれないように、私も後に続く。
「遊ばなくても良かったの?」
「あぁ、うん。眺めてるのが楽しいんだよね」
哲朗さんはとても楽しそうに笑う。
「色んな思惑が渦巻いてるというか、その片鱗が見える感じがしてさ」
半ば反射的に「ふーん」と応えてしまったけど、何も理解できなかった気がする。今はとりあえず、納得も同意も棚上げしておこう。
「スタバも喫茶店も、まだ早いよね?」
哲朗さんはお腹に軽く手を添えて言う。このまま一階まで降りればスタバはあるし、一回外に出てしまえばファミレスもある。線路をくぐって大学側へ出れば、そっちのスタバも選択肢に入れられる。
正面に見えるフードコートは人影がまばらに見えるけど、手前のスタバには既に列ができつつある。店内をサッと見回しても、すぐに座れる気がしない。今から他の喫茶店を探しながら歩いても、どんどん座りにくい時間になってくる。
「向こうのスタバも一杯だろうな〜」
彼はそう言いながら、スタバの前を素通りする。フードコートの手前で右に曲がった。後ろのサーティワンをチラリと見てみたけど、夏休みっぽい親子連れでそれなりの列ができているらしい。
線路側の出入り口に向かう哲朗さんの背中を追いかけながら、道中の雑貨やカバンに気を取られて足を止めてしまう。商品から顔を上げると、向こうの方に「無印良品」の看板も見えた。
私が付いてきていないのを察したらしく、哲朗さんはインフォメーションセンターの前で足を止めて振り返った。彼は私の視線を追いかけて、無印の方を指差した。私が頷くと、彼は無印の方へ歩き始めた。
とりあえず、先に化粧水を見て、おやつでも買おう。そこから先は、後で考える。