9月9日(土)

 Mサイズのオフィスで、今日の分の撮影データをチェックする。2作品同時に走っている状態で、映画撮影としては半分素人ばかりで進めているため、順調に進行しているとは言い難いけれども、余裕をたっぷりとったスケジュール的には、大きな問題はなくここまで来れている。
 先月にやった最初の方の撮影では、現場ではデータのチェックをやっていたものの、必要なシーンの撮り漏れがあったり、そもそも撮影を失敗していて素材として使えないものも入っていたり、記録が不十分で動画素材とどのシーン、どのカットかが不明瞭なものもあったり、制作進行の拙さが目立っていたものの、こうやってその日のうち、できなければ翌日までにデータを確認することで、その辺りの問題は解決できているような気がする。
 大学の同期と、バイト先の若手の混成チームで連携を撮りながら、この調子でポスプロも上映も順調にこなせれば最高なんだけど、油断は禁物。こういうタイミングで緩むのが一番怖い。
 眼がしょぼしょぼしてきた気もするし、ヘッドフォンを付けっぱなしの耳も、微妙に痒さや痛みが出て来た気もする。ヘッドフォンを外し、机の上の目薬を手に取って、一滴ずつ垂らして馴染ませていると、隣に座っていた哲朗さんが「へー」と声を漏らした。
 何事かと思い、目薬の刺激を感じながらゆっくり目を開ける。彼は私に、自分のモニターが見えやすいように動かした。
「メイキングの広報ブログが、アクセス伸びてるんだ。それも、この二、三日の間に」
 彼が見せてくれているアクセス解析のグラフは、確かにグッと高い山ができているような気がする。彼は「で、さらに」と動画サイトのデータも見せてくれた。
「コビトカバチャンネルの再生数、視聴者も増えてるというか、伸びてるんだよね」
 こちらはブログのアクセスに比べると、微増というレベルの伸びかただけど、確かに今までとは少し違うユーザーが見てくれているらしい。
 急に伸び始める理由がピンと来ない。例のインタビュー記事が載ったフリーペーパーは、まだ見本にしかなっていない。
「案外、身内が今まで見てくれてなかったのかもね」
 哲朗さんは、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、ボソッと呟いた。そういえば、主に沙綾さんが、ルミさんから受け取ったPDFを関係各所に転送していたような。アレがきっかけで伸びているとしたら、彼の説が説得力を帯びてくる。
「この調子なら、ヒイラギも伸びてるかもね。今度、森田さんに聞いてみる」
 哲朗さんの権限では、ヒイラギのアクセス数は確認できないらしい。ただ、同様の現象が起きて、ヒイラギも身内や関係者によって底上げされている可能性は十分にある。
「なんだかんだで、部数も着実に微増だし、次号は思い切って増やす話もしてるらしい」
 哲朗さんの目は、今は誰も座っていない武藤さんの席、奥の打ち合わせスペースへ順番に向けられた。
「フリーペーパーが月末に出たら、色々ハネるかもね」
 哲朗さんは、私の方へ向けたモニターを自分が見やすい向きに変えながら、「有名人の仲間入り、本当になるかもね」と私に笑いかけてくれた。
 それは希望的観測すぎる、夢を見過ぎなのではと頭の片隅で思いながら、心の奥底で、激しく躍り出しそうになる気持ちも感じていた。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。