12月30日(土)

 駐車場から出てきた、父と母を乗せた車は、晃兄の運転によって車列に合流した。見通しの良い直線道路なのに、交通量のせいか、すぐに目で追えなくなる。
 私たちの後ろに立っていた一兄は、ふぅと息を吐いた。その隣にいた沙綾さんは「つつがなく終わったね」と笑った。
「お祝いしたことないって言ってたけど、十分お祝いしてたじゃん」
「アレがお祝いだったなんて、お前、知ってた?」
 沙綾さんに笑われたのが悔しかったのか、お鉢が私に回ってきた。私も答えに窮して、一瞬考え込んでしまう。
「まぁ、時期的に家族の忘年会っぽくはあるけどね」
「それはそうね。お誕生日会にしては静かすぎるというか、めちゃくちゃシュールだよね?」
 沙綾さんと哲朗さんは、楽しそうに笑い合っている。これがほぼ毎年の恒例行事になっている私たちには、そのシュールさもよく分からない。まぁ、黙々と蟹を食べる会だったから、変なトラブルもなく終わったのは良しとしよう。
「で、どうする?」
 一兄が沙綾さんに訊いた。
「飲み足りない気もするし、はしゃぎ足りない気もするな」
「哲朗くんは?」
 哲朗さんは腕を組んで少し考えてから、「歩きますかね」と応えた。それを聞いた一兄は、沙綾さんに「オレたちも、とりあえず歩いて駅まで行くか」と言った。
「ちょっと遠くない?」
「腹ごなしと酔い覚ましにさ」
 一兄は一足先に、茨木市駅の方へ向かって歩き始めた。沙綾さんの方に振り返って、「駅前まで行けば、カラオケもバーもあるし」と言うと、さっきまで気怠そうだった彼女の顔が一気に華やいで、「よし、乗った」と言った。
「ほら、行くよ」
 沙綾さんは私たちの背中を押して、一兄の後を追いかける。哲朗さんは私に、「どうする?」と言いながらも、足を動かしていた。私が肩をすくめて見せると、彼は笑顔を見せた。
 一兄を先頭に、ひたすら真っ直ぐ西河原西の交差点を目指して歩く。すっかり陽も落ちてそれなりに肌寒いけど、みんな元気よく、楽しそうに歩いている。交差点までくると、一回向かい側に渡ってから、171号線を渡った。茨木川を越えると、JRの高架が見えてくる。
 集団で車や自転車に気をつけながら歩いていると、ポケットの中のスマホが震えた。信号を渡ったところで取り出すと、晃兄から、無事に帰り着いたというメッセージだった。
「今どこ? だって」
 一兄に画面を見せた。
「極楽湯の交差点っと。ついでに、15分後に阪急茨木集合っと」
 一兄は私のスマホを手に取り、勝手に晃兄にメッセージを送ってしまった。私は怒っていますよ、と頬を膨らませながら、一兄からスマホを取り返した。一兄は「そんなに怒るなって」と笑いながら言った。
「ハンドルキーパー押し付けちゃったし、飲ませてやろうよ」
「帰れなくなったら、哲朗の家に押し掛ければ良いし」
 一兄は、沙綾さんの言葉に「それ、いいね」と冗談めかして言った。哲朗さんは本気で困惑しながら、「そんなに沢山、無理ですよ」と抗議している。
「とにかく、不完全燃焼の忘年会をパーっとやろうぜ」
 沙綾さんは「いいね、いいね」と陽気さ全開で一兄の言葉をどんどん煽る。一兄はいつの間にパーティーピーポーになったのか。あるいは、沙綾さんが彼をそうさせているのか。その真意は、私には分からない。
 ただ、そういう二人とそれに翻弄されている哲朗さんとを眺めるのは、なんだかとても幸せな気持ちになってくる。まだまだ気が早いけど、こういう家族も私は好きだ。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。