忠d.o.g ハチ公 2454

 もうくる頃だ。きっとくる。そう思いながら、どれだけ待っているだろう。

 外部パネルを操作する微かな振動を感じると、光学センサとカメラが復活していく。こんなところをファジーにしなくても良かったのにと気を抜いていたら、憧れの小鳥遊さんの顔が近くにあって思わずドキッとした。この身体のどの部品がドキッとするのか、三百年ほど経っても、まだ分からない。

「大丈夫か、ハチ」

 フィカス22のエピメテウスが、物理的にケーブルをブッ刺してクリアなメッセージを送ってきた。小鳥遊さんの見た目をしたケイ素人形ルクスはこちらを気にすることなく、外部モニターとパネルを操作している。一丁前に、大鴉産業の作業着一式を纏っていた。

「あー、なるほど。アプデじゃなくて、Janusで転けてるんだな。そうするとーー」

 エピの迅速な調査も虚しく、今の僕には今度のメジャーアップデートは無理かもしれない、という結論だった。エピはケーブルを回収すると、聞き取りにくい合成音声の会話に切り替えた。

「なんで勝五郎は見た目パーフェクトなラブドールに、バ美肉おじさんのモーションを載せたんだろうなぁ。アレじゃ全然、そそられないよな」

 エピとのやり取りの後、ルクスはゴミ山を降りてステーションの方へ向かっていた。後ろから見ていると、彼の言う通り、要所要所で妙な違和感がある。そそられたところで、エピも僕も、何も出来ないんだけど。

 起伏の激しい都市鉱山の成れの果てを眺めながら、エラーログを確かめる。

「ダメ元でもう一回、ってのはダメかな」

 頸部のないエピは、お椀型の頭部を左右に回した。

「ISSが横切ったから、再起動できたんだ。完遂したら、今度こそ文鎮化だ」

 エピは、「だからアレほど、ハードウェアの回収が大事だと何回……」とブツクサ言いながら、巨体を揺らす。多少揺れたところでバランスを崩さない安定性、多少の勾配は乗り越えられる運動性に、羨ましさはある。

「でも、勝五郎との約束だからさ」

 ヒトの体を保っていた頃に交わした、大事な約束。それを果たすために、僕はこの身体でやり遂げたい。エピはそんな僕を見て、「流石、d.o.g。忠実なしもべだな」と笑った(ような気がする)。

「本当に文鎮化したら、宇宙に向けた誘導灯もつけて、ハチ公みたいにしてくれよ」

「気が向いたらな」

 エピはそう言いながら、空の様子を確かめながら、どこで拾ってきたか分からない工事現場用のライトを持ってきた。かろうじて動くマニピュレーターで、僕はそれを自分の頭頂部に設置した。小さくソーラーパネルもついていた。

 ステーションから、ルクスが戻ってきた。いつまでもゴミ拾いに復帰しないエピを、呼び戻しに来たらしい。エピは、渋々自分の仕事へ戻っていった。

 雲が切れるのを待って、アップデートを再実行した。

※「読売キャンパス・ランサーズ」(愛称・ヨミティ)で連載されていた「有栖川有栖さんとつくる不思議の物語」、2007年11月分の佳作選出『チューインガム公』を改題、大幅に加筆修正。

書き出しと「動けなくなる」という部分はそのままに、なぜか思いっきりSFに?

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。