7月17日(月)

 いつもより一時間早めに起きて、子ども達とバタバタし始める前にウェブサイトのアクセス状況を確かめる。昨日、小野寺さんと話した通り、アクセスの伸びは芳しくない。絶対数がそれなりにあるかと言われると、それもそこまであるとは言えない。
 サイトも自分たちで作ったし、構造自体は技術的に間違いないものを入れたつもりだし、デザイン的にもそんなに特異なものにはしていない。検索エンジン対策もちゃんとできてるから自然検索での流入もあるわけだし、リピートユーザーもいるんだけれども、新規ユーザーが根付いている感がどうにも弱い。
 キッチンの方から、芽衣が朝食の準備をしている音が聞こえてくる。僕は作業を一旦切り上げ、芽衣の手伝いと亜衣の朝の支度をフォローすることにした。芽衣のやりたいことがスムーズに運ぶように手伝い、亜衣や映美の要望が無理なく通るようにちょっとだけ手を添える。全員がやりたいようにやれるようサポートしながら、僕は僕で朝食をお腹に収め、子ども達や妻の身支度の合間を縫って洗面所で歯を磨き、髭を剃った。
 亜衣を幼稚園に送り、家に戻ってコーヒーを淹れているとあっという間に十時前。そろそろ打ち合わせの準備に手を付ける時間。
 しかし、資料の方向性、施策や提案が全く思い浮かばない。アクセス状況なんてみんなで共有しているし、そこからパッと見える答えなんてみんな大体一致している。ここから一歩踏み込んだ分析、提言が肝心だろうにーー。
「ーーお腹が痛いなら、整腸剤は薬箱の中だよ」
 映美に読み聞かせをしていた芽衣が絵本から顔も上げずに言った。
「別に、どこも痛くないよ」
「そう? 朝からずーっと難しそうな顔をしてるから。そういう表情は、いつも通りだっけ」
 芽衣は顔を上げて笑った。
 彼女の言う通り、僕が眉間にシワを寄せて考え込むのはいつものことだけれども、彼女に茶化されるのは久しぶりな気がする。
「芽衣の個人漫画より、ヒイラギの方が伸びてないから、どうしようか悩んでてね」
「そりゃあ、ポッと出の同人誌と比べられるようなモンじゃないからね」
 それは、そうか。中身のクオリティ以前に、そもそも始めたばかり。自己評価が高すぎて、自信過剰になってただけかもしれない。
「目先の成果主義に走らないって始めたんなら、もうしばらくどっしり構えて、そのまま自信過剰にいいもの作ることだけ考えたら?」
 全く持って、彼女の言う通りだ。「いつもの仕事」の癖で捉えちゃうから間違える。コレはそういった諸々のアンチテーゼとして始めたところもあるんだし、多少手応えがないぐらいでビビってても仕方がない。
「どう? 気分は晴れた?」
「ああ。ありがとう」
 芽衣は映美に急かされて、読み聞かせに戻って行った。僕は淹れたてのコーヒーを飲みながら、二人のやりとりをぼんやり眺めている。
 あくまでも同人誌だし、一人で答えを出す必要もない。みんなでしっちゃかめっちゃかになりながら意見を集約したって問題ないんだ。そういう打ち合わせをするのであれば、資料の構成はーー。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。