2231(仮) 第三七話

仮面ライター 長谷川 雄治 2231(仮)→塔の見える街

「一体ぐらいなら、リミッター解除って奴で何とかなりそうな気もするけど、それでも近付くまでが問題だよなぁ……」

 駿がボソッと呟いた。

 もちろん、その二体を相手にするのも問題ではあるが、ここからそこまでどうやって辿り着くのかも、まだ解決していない。ただ、ここで悩んだところで答えも出ないし、夕暮れという一つのタイムリミットも差し迫りつつある。日が暮れてからの突入はさらに難しそうだ。

「なりふり構わず、あるものを使うとか」

 桂花さんは、足元で転がっている消火器を見た。この先の道中でも、使えそうな武器はまだありそうだ。ただ、地図にも点在するガソリンスタンドは避けた方が良さそうだ。特に手前のガソリンスタンドは、近くに化学工場もある。できるだけ刺激をしないように通り過ぎた方が良さそうだ。

 駿は不意に、地図の一点を指差した。

「ここ、向こうは貨物の駅なんだ」

 以前はテーマパークの名前がついていたらしい最寄駅と、南に流れる安治川の間が貨物の駅になっている。桂花さんは駿のその言葉に、「それで?」と続きを促した。

「ここにも一台ぐらい、重機がありそうじゃない?」

 駿はケータイで地図を立ち上げ、該当箇所をタップした。いつ撮影されたものかは分からないが、現地の写真が何枚か紐付けされている。中央市場で見たような搬入搬出用の特殊重機、作業用ロボットっぽいものが写っていた。

 正面からぶつかり合って勝てるとは思えないが、何もないよりはマシか。

「ここまで行って、こう行く?」

 桂花さんは、駿の示した地点から、線路を横切り、駅前から旧門前通りを抜けてテーマパークへ至るルートをなぞった。

「相手が相手だもんな。それ以外は認めない、とか言われそうだな」

 駿が横から彼女に同意した。だったら素直に電車を動かしてくれれば良いのに、変なところで面倒臭い、相変わらず独りよがりな三流脚本家だ。見えてる誘いには極力乗っからないと、かえって面倒臭い。

「じゃあ、決まりだ」

 僕は地図をしまい、代わりに調達してきた銃身の短いリボルバーと、銃弾を二人に渡す。駿は「俺はこっちでいい」と銃を受け取らず、警棒を数本自分のバックパックに詰め直した。

「背後と援護は頼んだぜ?」

 駿は僕がそれに答える前に、自分がぶち破った入り口から外へ出て行った。桂花さんは「やれやれ」と声に出していい、盾を構え直して警棒を握りしめる。僕は、彼女と共に周囲を警戒しながら外に出た。

 北港通を真っ直ぐ西へ進み、道中のコンビニの前に立っている旗や中の消火器、カラーボールと言ったものも駆使しながら敵を撃ち倒し、バス停の先にある交差点で線路や川のある方へ曲がった。北港通より細い道ではあるが、片方に神社があるからか、高い建物はほとんどない。逃げ場のないところで頭上から襲われることを危惧していたが、これならさっさと細い道を走り回るという選択肢を選んでも良かったかもしれない。

 最も、他の道は曲がり角や逃げ道も少なく、囲まれればあっという間に終わってしまう恐れもあった。倒壊している木や電柱、千切れて地を這う電線にも気をつけながら、時にはそれらも利用して、迫り来る実験動物やゾンビ、小型の自律ロボット等をやっつけた。

 動きが読みにくい四足歩行の犬や猫のようなキメラも、盾や銃を駆使して何とか倒し、パワーのありそうな大型の怪物に関しては、駿の素早い近接戦闘が非常に有効だった。

 最前線で戦う駿はそれなりに傷も負っているが、アドレナリンが出まくっているのか、戦闘用のパーツで身体を構成しているからか、運動量はあまり落ちていない。流石に呼吸は上がっているようだが、メンタルに響いている気配もなかった。

 目の前に線路が見えて来たので、右へ曲がる。線路に沿って西へ進み、一つ手前の駅前まで来た。大阪市内の駅にしては、周りにあまり物がない駅だ。立派な郵便局が隣接しているぐらいで、あとは駅の向こうに貨物のコンテナが並ぶぐらい。

 普通に歩けばせいぜい二〇分ちょっとのところを、戦いながら、極力安全を確保しながら進む分余計な時間を取られ、倍ぐらいの時間がかかっていた。

「先に、そこのコンビニでちょっと休憩しよう」

 戦いっぱなしの駿が、打ち倒した敵の体液を拭いながら、声を弾ませて言った。桂花さんも両肩で息を切らし、「賛成」と言う。余計に時間を使い過ぎているとは思うが、この辺りで水分補給ぐらいしておかないと、倒れてしまうかもしれない。ゆっくり休憩する時間も場所も、ここが最後の可能性もある。周囲に厄介な敵がいないことを確認して、無人のコンビニに入った。空調は落とされているが、人の出入りが少なかったからか、まだ冷気が残っている。暑い中走り回って来た身には、それだけでもありがたい。

 駿は売り場のドリンクを選び、僕に手渡した。そのまま彼はトイレに向かった。僕と桂花さんもドリンクを選び、無人のセルフレジで決済した。イートインコーナーで駿を待ちながら、冷たいドリンクで喉を潤す。

 トイレから戻って来た駿は、水道で汚れも落としていた。彼と入れ替わる形で、桂花さんがトイレに向かった。

「何とか五時には着けそうだな」

 駿はよく冷えた炭酸水を開け、黄色いエナジードリンクを流し込んだ。僕は目の前に見える貨物駅を眺めながら、開けたばかりのお茶に口をつけた。

 当初の予定ではひたすら歩き通しても一時間程度、せいぜい二時間もあれば余裕だったのに、あっという間に夕方だ。できれば、明るいうちに奴の顔を拝みたい。

 駿とぼーっとしている間に、桂花さんが戻ってきた。今度は入れ替わりに僕がトイレに入った。用を足し、イートインに戻って少々ボーッとしてから、「さ、行くか」と駿の声をきっかけに立ち上がった。店の外に出て、どこから貨物置き場へ入るか、左右を見て考える。

「もう一駅歩いて、普通に入るか」

 駿は線路の向こうを指した。地図を取り出して確かめると、駅の向こう側に車両の侵入経路が書かれている。すぐそこの駅に入って、ホームから下に降りて線路を踏み越えるのも余計な体力を使うし、フェンスを乗り越えて無理に頑張る必要もない。

 ここから見る限り、線路沿いにはややこしい相手は見えない。真っ直ぐ行っても、そんなに激しい戦闘もなさそうだ。駿の提案に乗り、見通しのいい道をそのまま西へ向かう。目の前に見えて来た交差点で、高架の方に曲がった。目の前には道路に沿ってズラーッとフェンスが張られている。

「これぐらいなら、超えられそうな気もするけどな」

 駿は、ガードレールの向こうにあるフェンスを見て言った。フェンスの手前は歩道と言うより、ガードレールを設置するための幅の細い縁石。背の低い植え込みがあって、貨物用の線路とコンテナ、それを積み下ろしする大きなフォークリフトもいくつか見えた。次の荷を待つトレーラーも、何台か並んでいる。

 事務所っぽい小さな建屋の隣に、随分と背の高いガレージみたいなものも見えた。我々が狙う物は、そこに格納されているのだろう。乗り捨てられているフォークリフトもかなり使えそうだが、さっき写真で見たロボット然とした重機を動かせるのなら、そっちの方が良い。

 あれかな、これかなと色々考えながら歩いているうちに、右手に駅と隣接する背の高いホテルが見えて来た。左側には関係者以外立ち入り禁止の進入路が見える。あそこから中へ入れば、無駄な体力を使わずに済む。

 念の為に車の行き来を確かめてから、車道を渡る。かなり適当に停められているように見える車やトラックの間を抜けて、目的の建屋に来た。横にある小さなドアを、駿の力で強引に開ける。ガレージの中は外から見たときより高さはないが、目の前に巨大な人型の重機が横たわっていた。これから立ち向かう兵器よりは小柄に見えるが、何もないまま突っ込むよりは遥かにマシだ。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。