12月16日(土)

 眠さのあまりグズっていた二人の娘と共にお風呂に入り、入浴後の着替えと寝る前の歯磨きも済ませてベッドに連れて行った。普段ならしばらく寝てくれない亜衣も、今日はすんなり寝入っていた。寝冷えしないように掛け布団をしっかりかける。
 寝室で室内用の上着をパジャマの上から羽織って、リビングへ降りた。先日ようやく出して一所懸命飾り付けたクリスマスツリーがテレビの前でドンと存在感を誇っている。
 芽衣は、どうやら僕たちと入れ替わりでお風呂に入ったらしい。風呂場の方からそれらしい音が聞こえてくる。僕は音量を抑えてテレビを付け、適当なザッピングを経て、地上波発放送らしい映画に合わせた。まだ始まったところだろうに、何が何やらよく分からない。
 キッチンへ入って、何を出すか考える。先月飲み切らずに仕舞ったままになっていた、安物のワインが残っていた。今年のボージョレだけで良かったのに、欲を出したせいでそのままとは。
 ズボンのポケットからスマホを取り出し、「グリューワイン」で検索した。スーパーで買えるパウダータイプのスパイスばっかりだけど、適当に作ってなんちゃってで飲む分には事足りる。
 「ホット赤ワイン」のレシピに則って、小鍋にワインを注いで火にかけた。子供たちに素直に寝ててくれよと願いながら、換気扇のスイッチを入れる。しばらく聞き耳を立てていても、上から降りてくる気配はなさそうだ。レシピ通りにはちみつや生姜、スパイスを加えて火を強める。沸騰直前で火を止めた。オレンジやレモンのスライスなんて、常備していない。冷蔵庫に残っていたマーマレードを取り出して、目分量で入れてみた。
「何してるの?」
 肩にかけたタオルで髪を拭きながら、芽衣が「良い匂いね」とキッチンへやって来た。
「ホットワインでも、と思って」
「あら、良いじゃない」
 芽衣は「ちょっと待ってて」と言い残し、寝室へ上がって行った。そっちから、ドライヤーの音が微かに聞こえてくる。僕は小鍋の火をとろ火にして再び点けた。温度が下がりすぎない程度に時々軽く揺すって、ツマミを何にするか考える。
 確か冷蔵庫に、朋子さんからいただいた良いチーズが入っていたような。ドアを開け、中を入念に探っていると、芽衣が後ろから「何を探してるの?」と声をかけて来た。
「チーズって、どこだっけ?」
「あのチーズは来週まで取っとかない? 折角のクリスマスだし」
 芽衣は僕の同意を待たず、ぬるりと冷蔵庫のドアから僕の手を離してそのまま閉めた。芽衣は食卓に放り出したままのビニール袋を探り、チーズのおかきを取り出した。
「コレにしない?」
 実家から適当にもらって来たお菓子の中から、ホットワインに合いそうなツマミを見繕って、チーズのおかきも含めて適当なお皿に開けてみる。ワインを普段使いのマグカップに入れ、先に座っていた芽衣の向かいの席に座った。
 僕から自分のカップを受け取った芽衣は、「お疲れ様」と乾杯して、一口飲んだ。
「マーマレードがちょっと甘いかな」
 彼女の感想に僕は疑問を抱きながら、味を確かめてみる。蜂蜜の甘さにマーマレードの甘味も加わって、確かにちょっと甘さが強い気もする。
「レモン汁でも足す?」
「このままでいい」
 ちょっと酸味を加えればバランスは整うのに、立ち上がりかけた僕を制して、彼女は自家製ホットワインをもう一口飲んだ。小包装のお菓子をツマみ、口に放り込む。
「来週にはクリスマスで、あっという間に年末か〜」
 芽衣はカレンダーを見ながら、気の抜けた声で言う。クリスマスが終わればツリーの片付けが始まって、すぐに大掃除とできる範囲でのおせち作り。その先も何となくで思い描きながら、ホットワインの甘さと口の中に残るマーマレードの皮が気になって仕方がなかった。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。