12月31日（日）午後10時

　紅白の途中で子供達とお風呂に入り、ニュースで中断される頃には二人ともベッドの上で寝息を立てていた。中々寝ないと必死に寝かしつけ、一緒に寝落ちしていたのが懐かしいぐらい、最近はスッと寝てくれている。
　夕飯の片付けと、明日以降の段取りを終えた芽衣が、遅れてお風呂に入っている。僕はその間に、食卓へパソコンを持ち出して、SNSをチェックしていた。今年を締めくくるブログも投稿し終え、それに因んだ投稿をそれぞれのSNSで発信する。
　サッと返せそうな返信もいくつか終え、芽衣がお風呂から上がってくると同時に、パソコンの電源を落として、寝室へ片付けに行った。リビングへ戻り、水分補給を済ませてトイレに立つ。用を済ませて出てくると、芽衣もしっかり寝る準備を整えていた。
　僕は彼女の視線に気が付き、「ああ、ごめんね」とトイレの前を空けた。
「先に、ベッドに入ってる」
　芽衣は僕に頷きながら、トイレのドアを閉めた。普段からするとまだまだ寝るには早い時間だけど、かなり眠そうな顔をしていた。僕は彼女に宣言した通り、一足先にベッドへ入った。
　スマホを充電しつつ、改めてさっき投稿したブログ記事をチェックする。編集長をやっているメディアサイトでは校正もしっかりやっているのに、個人のブログだと何故か誤変換や引っかかる表現がチラホラ見つかる。セルフチェックの甘さを実感しながら、「今日は修正しない」と改めて心に決めた。
　芽衣があくびを噛み殺しながら寝室へ入ってきた。トイレと歯磨きにしては、随分遅かったような。僕がスマホを持ったまま彼女を見つめていると、彼女は「戸締りも確認してた」と小さな声で言った。
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして」
　芽衣はそのまま、ぬるりと僕の隣へ入って来た。僕はスマホを枕元に置いて、しっかり布団の中へ身体を収める。足先の方はまだまだひんやりしていた。芽衣は僕の横で、スマホと置き時計のアラームをそれぞれセットする。
「まだ十時か。明日が早いって言っても、流石に早すぎるかな」
「そう？　大晦日だから早い気がするけど、こんなもんじゃない？」
　芽衣はすっぽり肩まで布団に収まって、仰向けに天井を見つめている。僕はその横顔をジッと見つめた。
「なぁに？」
「別に。なんでもない」
　芽衣は大きなあくびを一つすると、そのまま目を閉じて身体を向こうへ向けた。僕はそれを、後ろから抱きしめる。彼女の温かみと匂いを感じながら、裡なる睡魔の到来を待った。もうしばらくは訪れそうにない。
　とりあえず、枕元のリモコンに手を伸ばし、部屋の照明を落とした。常夜灯も点けない部屋の中は真っ暗だ。暗がりを見つめながら、今年の出来事と来年の出来事を改めて思い描く。
　思い起こせば色んなことがあった。自分のことも、親族のことも、仕事仲間のことも色々あった。来年もきっと、色んなことが起こるだろう。心配なことも不安なことも沢山あるけど、痛々しさを手放さずにやっていこう。オレの人生、まだまだこれからだ。

（完）