3月29日(水)

 薄暗がりの住宅街を、スマホのマップアプリが示すままに歩いて、そろそろ5分。アプリによると左手に広がる公園が、いつも目にする彩都西公園らしい。目の前にはモノレールの高架も見えるが、今のところ出入りする気配がない。
 足を止め、横を歩いていたつもりの沙綾を探すと、少し後ろをトボトボ歩いていた。その場で眺めていると、3秒とかからず、目の前まできた。自分の足元を見ている彼女に向かって、「どうする?」と投げかけた。
「公園を抜けたら、着くらしいけど」
「帰る前に、お手洗いに行きたいな。ちょっと冷えちゃった」
 5分もあれば自宅に帰り着けそうな気もするが、近くにトイレはあったかな?
 暗がりの公園でトイレを探すのもイマイチか。どうしたものかとマップアプリに視線を落とすと、道なりに真っ直ぐ行った先、高架の向こうにミニストップがあるらしい。
 そういえば、この辺りだったっけ。少々遠回りになるけど、自宅に向かうよりは近い。公園のトイレよりは何倍もマシだろう。
「もうちょっとだけ我慢してくれよ」
 沙綾の横に立ち、彼女の身体を支えながら、歩行を補助する。真っ直ぐ道なりに進むと、さっきは見えなかった看板が、煌々と輝いている。強かに飲んだ後の夜道には、とてもありがたい希望の光。高架を潜ってすぐ、駐車場の広いミニストップに辿り着いた。
 沙綾は早々にお手洗いを目指した。運良く空いていたらしく、スムーズに中へ入って行った。僕はそれを見届けて、ドリンクコーナーと栄養剤のコーナーへ向かう。500mlの水と、ウコンのドリンクをカゴに入れ、ついでにお菓子のコーナーで袋入りの森永ラムネを2袋ほど追加した。
 レジで会計を済ませていると、いつの間にか沙綾は僕の隣で腕を組もうとしていた。さっきまでトボトボと歩いていた割には、ケロっとした顔をしている。
「炭酸水とか、追加のビールとか入れなくていいの?」
「もう十分飲んだだろ? お土産のウイスキーはまた今度」
 駄々をこねる沙綾は気にせず、ビニール袋に入れてもらった商品を受け取った。一瞬、荷物を沙綾に持たせて自分もトイレを借りようかと思ったが、そちらに目を向けたタイミングで、別の誰かが入るところを見てしまった。そこまで切迫していないし、このまま彼女をほっぽりだすとどうなるか分からない。
 トイレは断念して、サッとお店の外に出る。外に出たところでウコンのドリンクを取り出して、軽く振る。蓋を開けて沙綾に差し出すが、彼女は顔をしかめた。
「いいから飲みな。明日も朝から忙しいんだろ?」
「らぁ〜い丈夫らって。まだまだ飲めるし、日付も変わってないし……」
 沙綾はそういいながらも、バランスを崩してちょっぴりよろける。転けないように手を出すと、手の中でドリンクが少しこぼれてしまった。それを見た沙綾は楽しそうに笑う。
 この酔っ払いを大人しく連れ帰るには、まずはこっちがシャッキリしないと話にならない。すでに蓋を開けた方に口をつけ、一気に飲み干した。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。