2月18日(土)
朝から燃えるゴミを出し、近所の業務スーパーまで週末の買い出しを済ませてから、そろそろ2時間。娘二人を連れて、名神高速沿いに安威川を渡り、人気のパン屋さんへ散歩がてらお昼ご飯を買いに行って戻って来ても、旦那はリビングの椅子に座って考え込んでいた。
一番日当たりが良さそうな椅子に座り、いつになく真剣な表情を浮かべている。結婚する前から考えすぎる人だったけど、長女が生まれてからは家の中で不機嫌な顔を作らないようにしていたけれど、今日は少々不穏な空気を醸していた。
旦那の整った顔立ちに、真剣かつアンニュイな表情の組み合わせは非常に美しいと思うのだけど、まだ幼い子供たちには少々怖く見える気がする。
亜衣と映美と洗面所で手を洗い、さっき買って来たパンをお皿に出していると、顔の緊張を解いてキッチンまで手伝いに来てくれた。
「あなたも食べる?」
「ああ、うん。僕の分もある?」
パンの詰まった袋を見て、彼は電気ポットでお湯を沸かし始めた。「気が利かなくてごめんね」と人数分のカップを出し、娘たちの分には真新しい牛乳を開けて注いでくれた。娘たちは早々に食卓について、「いただきます」と両手を合わせ、自分たちの目の前にあるパンにかじりついた。
「芽衣も先に食べて。コーヒーは僕が入れる。紅茶の方がよかった?」
イエローラベルの箱を掲げる。「じゃあ、紅茶で」と私は椅子に座った。子供達の様子を見ながら、二人も食べているクリームパンに手をつけた。少し待っていると、康徳さんが紅茶を持って来て、隣に座った。
ちょっぴり緩慢な動きでミックスサンドを開け、ぼんやりと口に運ぶ。その視線は窓の外に向けられている。
「まだちょっと肌寒いけど、日差しは暖かかったよ。亜衣は途中で上着脱いじゃった」
「へー。午後も天気良さそうだしな……」
彼はもそもそとサンドイッチを咀嚼し、紅茶を啜った。
「公園でも行ってこようか?」
「公園」のフレーズに、亜衣がはしゃぎ始める。食事中に身体を動かし始めた長女を見て、康徳さんの目に少し生気が戻った。
「僕も行こうかな」
「え?」
「身体を動かさないと、頭も動かないし。帰りにアルプラザで、アイス買って帰ろう」
アイスのフレーズにも娘たちは大いにはしゃぐ。アルプラザまで行くと余分な散歩になってしまうけど、今の彼にはそういうものが必要らしい。
「公園はいいけど、アイスは小さいのにしてよ」
そういうと、亜衣は「えー」と抗議の声を上げる。不満げな長女に「マクドナルドのシェイクにするか」と康徳さんが提案すると、亜衣はすぐに「シェイク、シェイク」と繰り返す。
「もー。仕方ないなぁ」
私がそういうと、康徳さんと亜衣は「やったー」とハイタッチした。食べ差しのパンを食べ、しっかりとお昼ご飯と片付けを終えてから外に出る。亜衣とそう約束すると、彼女は行儀良く、しかし少し気忙しくパンを食べ始めた。隣の映美もお姉ちゃんに負けじと自分の選んだパンを食べ進める。
二人の娘を見つめる康徳さんの顔は、ちょっとだけ元気がなさそうに見えた。