1月23日(月)

 Slackで、森田さんからのDMが届く。個人のやり取りは珍しいと言うか、コレが最初だ。通知を辿ると、「フードトラックのケータリング事業とか、認定保育園と看護師とのマッチングサービスとか、どう思う?」とのメッセージ。
 Macの画面を見て、メッセージの意味を考えていると、横から藤堂が覗き込んだ。
「どう思うって、随分フワっとしてるな」
「まぁ、具体的な仕事の話じゃないんだと思う」
 仕事の話ならそれ用のチャンネルに書き込むだろうし、案件の相談、確度の高い知人からの持ち込みなら、雑談用のチャンネルで「大人の意見」をやり取りしてもらった方が早い。それに、普段の森田さんなら、目的も意味も明確な、取り違えにくいメッセージを送ってくれる。
「お金の目処は立っていないけど、経営学部的にどう思うか、広い意味で聞いてるんじゃない?」
「なるほど。向こうは向こうで、それなりの答えも持ってる、もしくは考えている最中か」
 藤堂は芝居っ気たっぷりに眉間にシワを寄せ、「難しいねぇ」と肩をすくめる。彼は自分の腕時計を見て、席から立ち上がった。そろそろ次の講義、テストが始まる。机に広げたMacとノート、筆記用具をカバンに詰め込んで僕も立ち上がる。学食から目的の教室へ移動しながら、東堂に聞いてみる。
「で、どう思う?」
「お前の課題だろ? オレには他人事さ。それに、」
 藤堂は僕に向け、顔の前で指を擦り合わせる。
「タダの相談事ほど高いもんはない。自分にとっても、相手にとっても。俺らが学生だと思われているなら、余計にな」
 普段の言動や仕草で見誤るけど、藤堂も流石に同級生。言葉を飲んでジッと見ていると、「なんだよ」といつもの「らしい」反応が返ってくる。
「その上で言うなら、なくはないけど、需要や可能性はそこまで大きくないかな。専門家、当事者だったらやるだろうけど、俺は手を出さないね」
「オレもそんな気がする。調査、分析で変わるかもだけど。まぁ、後でヒアリングしてみる」
 藤堂が先に教室に入り、広い教室の真ん中後ろの空席を確保する。僕はテスト用に間を開けて、席を抑えた。
「で、今のバイトはそういうのをやってんのか」
「パパッとサイト作ったり、サービスを踏まえたアプリ、システムを考えたり、ね。レディメイドの、最低限のマーケティングならすぐできるよ」
「へー。優秀だこと」
 同業の先輩、それもバイトじゃなくて本業でやってる森田さんなら、自分よりもはるかに分かっていそうだけど、わざわざ効いてきたのは僕なりの意見、僕なりの視座が欲しいから、だろうか。
 藤堂と共にテストを受け、回答のレポートを書きながら、全く関係ないことも考えている。自分なりにできうる精度の高い資料を作ってみて、頓珍漢かもしれないけどディスカッションしてみよう。可能なら、武藤さんや安藤さんも巻き込んでみたい。
 気がつけば、あっという間にテストを終えて、帰り支度を整えていた。この後、図書室に寄ってみて、関連資料があるか見てみよう。
「こんだけ良い顔してんのに、心理学部生になるのか」
 藤堂は心底残念そうに呟いた。「先に帰る」と藤堂に言われ、僕は図書室の前で独りになった。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。