9月21日(木)
スマホのアラームも時計の目覚ましもセットせずに寝ていたのに、枕元で唐突に唸り始めたスマホのバイブに起こされた。すぐに鳴り止むと思っていたのに、延々と終わらない。重たいまぶたをうっすら開け、画面を手元に引き寄せると電話が鳴り続けているようだった。
時刻は午前十時、電話の相手は上坂さんと出ている。彼女なら、僕が出るまで延々と呼び出し続けるだろう。まだゆっくり惰眠を貪りたかったが、身体を起こして緑のボタンを押した。
「もしもし?」
「あ、起きた?」
自分のガサガサ声に驚いて、唾を飲み込んだ。辺りを見回すと、寝る前に買った無糖の炭酸水が残っていた。キャップをひねると、微かにガスが抜ける。
「昨日のメッセージにいつまでも既読がつかないから、モーニングコールしてみたんだけど」
十時にモーニングコールって、と言いかけた言葉を炭酸水と共に飲み込んだ。
「散々引っ張り回した上に、無理やり飲ませちゃったし、大丈夫か気になっちゃって」
そういう風に振り回した自覚はあるんだ。昨日は僕も雰囲気とお酒に飲まれて、無邪気さを素直に信じてしまった。自分もそれなりに飲んだはずなのに、アレだけやっても、一緒にいた相手を気遣う余裕があるんだと見せつけられて、電話口の向こうではさぞかし勝ち誇った顔をしているんだろう。
「じゃあ、来週の件と今日の夕方、よろしくね」
彼女は自分の要件だけを伝えると、一方的に電話を切った。ほとんど休日の今日のスケジュールで唯一の予定が、夕方のミーティング。それまでには、人前に出られるように準備をしなきゃいけない。
とりあえず、スマホに充電ケーブルを挿し直す。ついでにメッセージを立ち上げると、確かに日付が変わるギリギリの時間帯に、上坂さんから「無事についたよ〜。おやすみ〜」のメッセージがスタンプと共に届いていた。
あと二、三口で飲み切りそうな、気の抜けた温い炭酸水を片手にキッチンの方へ行く。とりあえず電気ケトルでお湯を沸かすようにセットして、朝食のパンを冷凍庫から出す。
「そうだ、帰りに買おうと思ってたんだ」
昨日は早めに仕事を切り上げて、帰りに食パンを買おうと思っていたのに、上坂さんの用事に付き合わされて、買いそびれたんだった。帰りにコンビニへ寄った時は、たまたまプライベートブランドの6枚切りが切れてたんだっけ。
ここで余計な出費は痛いけど、仕方ないからパン屋へ寄ろう。僕はあんまり行ったことのない、駅前から北へ行ったところに、ハード系のパンが美味しいパン屋があると、母に教えてもらったことがある。
先にシャワーを浴びて、洗濯機を回そう。今から干すにはちょっと遅い気もするけど、今日中に手をつけておかないと、着るものもタオルもなくなってしまう。
炭酸水を飲み切って、ペットボトルのラベルと蓋を分ける。一旦元の部屋に戻って、カーテンを開けた。窓の外はとても明るく、街は元気に活動し始めている。僕は、替えのパンツとタオルを取り出した。