5月2日(火)

 連休前日の株式会社Mサイズは、久々にのんびりムードが流れているようだった。年度末の繁忙期、地方選挙前後も忙しそうにしていたが、今日は割と緩い雰囲気がオフィスに漂っていた。
「親父もすっかり、そっちの一員だね」
 幸弘は私が持ってきた袋の中を覗き込んだ。「どれが、どれだっけ」という息子に、一つ一つ説明してやる。「じゃあ、これにしよっかな」と、一番上の弁当を手に取った。
「哲朗くんと、浪川さんに先に選ばせてやれよ」
 幸弘は私の前にどっかりと座り、割り箸の袋に手をかけていたが、「それは、そうだな」と手を止めた。彼が席を立ち、哲朗くんたちを呼びに行っているのを眺めていると、後ろから「私もいるんですけど」と香織に声を掛けられた。
「あ、すまん。3つしか持ってこんかった」
 私の声が聞こえたらしく、向こうの方から哲朗くん、浪川さんの困惑する表情が見える。香織は「ごめんなさい、気にしないで」と二人に向けて言った。
「兄貴のを一口もらうわ」
 幸弘は二人を連れてこちらに戻ってくると、香織に「相変わらず、食い意地張ってるよなぁ」と言った。香織は「あら、悪い? 味にうるさいシンママの意見も大切でしょ?」と切り返した。若人二人は慣れた様子で、私に「いいんですか?」と訊いた。
「好きなもの、といっても3種類しかないが、遠慮なく。アンケートも、よろしく」
 幸弘が先に選んだハンバーグ弁当の外に、野菜がメインのヘルシー弁当、魚がドンと入ったシャケ弁当の3つから、浪川さんがシャケ、哲朗くんがヘルシー弁当を選んだ。
「哲朗くんが、ハンバーグでもいいんだぞ」
「いえいえ。野菜好きなんで」
 哲朗くんは弁当を手に、浪川さんと並んで座る。蓋に貼ったQRコードにスマホをかざしながら、心底楽しそうに笑っている。
「あれが自然体っていうんだから、恐ろしいよなぁ」
 幸弘もスマホにアンケートを表示しながら、ハンバーグに箸をつけた。香織も横からハンバーグを小さく切って口に運ぶ。一瞬目を丸くすると、その後はしっかり味わうように、ゆっくり咀嚼する。
「本当に、無理してないのか」
「執着しないというか、切り替えが早いのは、今の子っぽいけどね」
 香織はスマホを何度かポチポチすると、「ごちそうさまでした」と割り箸を片付けに行く。
「臆病というか、要領がいいというか」
 幸弘は一つ一つしっかり味を確かめながら、アンケートに回答していく。食べては応え、答えながら話す。消化には悪そうな気もする。アンケートの取り方は工夫の余地あり、か。
「でも、お父さんに反発する気概はあるのよね」
 香織はお茶を入れて戻ってきた。哲朗くんたちの方を見ながら、お茶を啜る。
「要所要所で、結構頑固だし」
「こういう仕事には、必要だからね」
 幸弘は、残りの漬物を摘みながら、ご飯を少しずつ口に放り込んでいく。
 哲朗くんは、隣の瑞希さんと楽しそうに弁当を食べ進めている。彼らもそろそろ食べ切るようだ。
「あの若さで、か」
「そう。お父さんとか、兄貴とは比べ物にならない、いい男」
 香織の言い方にカチンと来る部分も無くはないが、内容に異論はない。イマドキの若者も、悪くない。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。