7月13日(木)
微かな緊張感を漂わせた華やかな女子大生が、私の隣でお行儀よく自分の注文が届くのを待っている。視線は少し離れた向こうのテーブルに向いているらしい。
「貴女もあちらのテーブルが良かった?」
私の言葉に、彼女はハッとしたらしく私の方へ自然な愛想笑いを向ける。嫌味も力みも感じさせない、非常にナチュラルな笑顔に、作品から受ける印象とは違う人物像も見えそうだ。
彼女は落ち着いた様子で、自分の声に耳を傾けながら言葉を紡ぐ。
「いえいえ。今日はあくまでも見学なので、お仕事の邪魔はできませんよ」
高すぎず、甘すぎず、声まで華やかで程よい心地よさを持っているとは、中々の人たらしのようで。脚本や物書きだけでなく、出役もやれば沙綾と釣り合いも取れそうな器量なのに、持って生まれた武器を全て使うつもりはないのだろうか。
「それに、朋子さんとご一緒できるなんて光栄です」
「誰に何を吹き込まれたか知らないけど、持ち上げたって何にも出ないわよ」
「奢ってもらおうと思ったんですけど、ダメですか……」
彼女はオーバーにしょげて見せるが、そういうコミュニケーションも重々心得ているところが少し、鼻につく。向こうのテーブルで沙綾と目の前のモニターを見てディスカッションしている瑞希さんの方が、個人的には素直で好みかも。
テーブルに運ばれてきた季節限定の大きなかき氷を、色んな角度で写真に収めると、「いただきます」とかじりついた。私はスイートポテトと2種類のお芋が載ったプレートに手を付ける。
見た目の可愛らしさに反して、しっかりお腹に溜まる感覚。咀嚼の満足感もあって、この後の晩ご飯はそんなにいらないかもしれない。
目の前で山のように盛られていたフワフワの氷は、瞬く間に嵩を減らしていく。さっきの緊張感はどこへ行ったのか、食べっぷりは中々見応えがある。私がそうやって見つめている間も、彼女の視線は向こうのテーブルに向いていた。
向こうは向こうで、こちらのことなど一切気にする様子もなく、運ばれてきたお芋とかき氷にキャーキャー言いながら、楽しそうに笑みを浮かべている。
「やっぱりあっちのテーブルで、一緒に楽しくやれば?」
「いえいえ。コレぐらいの距離で観察するのが今日の目的ですから」
目の前の彼女は、遠くを見るような目つきで沙綾を見つめている。
「そんな取材で、沙綾を魅力的に撮れるのかしら?」
「撮るのはあくまでも監督ですから。私はいいホンのための着想が得られればいいだけですから」
あくまでもやり方は変えずに、自分の得意な領域で勝ちに行く、か。その若さでそのこだわり、鼻っ柱の強さはご立派だけれども、その頑固さ、優秀さが作家として致命傷にならなければいいけど、いらぬ老婆心を抱きすぎかしら。
どっちに転んでも、若手クリエイターにはいい経験になりそうな予感。口を出しすぎず、程々のところで手も出さず、中立を保って見守ることに徹しよう。
そんなことを考えながら、目の前の伝票を自分の方に引き寄せた。