5月4日(木)

 映美に背負わせていたハーネスリュックを一回降ろしてもらい、中に入れる物を改めて確認する。私の荷物にも、子供たち用の水分やらオヤツやらは入れてあるものの、最小限の軽いものはこちらにも小分けに入れておきたい。
 康徳さんは、アルプラザが開くまで待って、食品売り場で何か調達してからバスに乗ればいいと言っていたけれど、約束の正午を目安にバスに乗るつもりなら、9時台の便には乗っておきたい。
 昨夜の話ではそれで了承し合ったはずなのに、そろそろ出発したい頃合いになっても、康徳さんはMacを開いたまま動かない。バス停までの道のりを考えると、そろそろタイムリミットだ。
「康徳さん?」
 声をかけると、彼は少々驚いてこちらを見た。「ごめん、ごめん。もう出ないとね」と食卓に並んだ荷物に目をやった。私は亜衣にトイレを促し、彼女が戻ってくると映美をトイレに連れていく。トイレから出た映美を康徳さんに任せ、自分たちの出発準備を整える。映美にはハーネスリュックを背負ってもらい、康徳さんは私が持つつもりだった大きなバッグを持ってくれた。開いた手で、映美の手を握って外へ出る。
 玄関横のガレージには、いつでも出かけられそうなマイカーが鎮座している。ドアにしっかり鍵をかけ、先に歩き出した亜衣たちを早歩きで追いかける。
「本当にバスで行くの?」
 康徳さんは頷いた。怪訝そうな面持ちで「ダメだった?」と聞き返された。
「二人ともしっかり歩けるんなら、と思ったんだけど。サンデードライバーも怖いしさ」
 子供らは確かに歩けるようにはなったけど、行き帰りの道中で、最後までグズらずに歩けるとは思えない。幸い、バス一本で座っていれば着くけれども、余分な荷物は増えるし、寝入った場合の手が足りるかどうかも不安ではある。
「別に、俺が飲めないからってだけじゃないよ。向こうに長いこと停める場所とかお金とか考えたら、安全も考えてバスでいいじゃん」
 連休中の運転は確かにちょっと怖くはある。だったらもっと早い時間帯に出てもいいんだろうけど、今日は無理して動くのも難しい。康徳さんが一杯二杯は飲めないと困るのもよく分かるし、今回はバスしかないか……。
「おっと、まだ開いてないんだっけ」
 アルプラザの裏手まで来て、康徳さんは建屋の外周道路に沿って右手へ迂回する。駐車場の出入り口に気をつけつつ、西出入り口の方へグルッと回る。正面の道路を左へ進み、171号線との交差点を渡った。吉野家の前のバス停で、「阪急石橋行き」を待つ。ここまでは、二人の娘は自分の足でしっかり歩いてくれている。
「次は、41分か。一本前の奴は行ったばっかりか~」
 彼は腕時計を見ながら、目の前の通りへ目をやった。反対方向は割とスムーズに流れているけど、こちら側、箕面方面行きはいつもより若干交通量が多い気がする。
「向こうにバスが見えるけど、アレが遅れてる奴だったらいいんだけど……」
 彼は、「餃子の王将」の向こうに見えるバスをジッと見ている。まだ小さくて行き先表示は見えないけれど、阪急バスであるのは間違いなさそうだ。このままスムーズに、約束の時間に間に合えばいいんだけど、と思っていたら、段々近づいてきたバスの行き先には「豊川四丁目」と書いてあった。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。