4月15日(土)

 学食のいつもの席で、いつものように弁当を広げる。ぼーっと目の前に広がる光景を眺めながら、焦点を合わせることもなく、ただただぼんやり頭を休める。
 なんだかんだと、色んなものに首を突っ込んでいて、実家にそれほど頼らなくても苦もなく生活できているのと、楽しいのは間違いないが、仕事と仕事未満と勉学との狭間で、今年に入って休まる瞬間がめっきり減ってしまった。
 転部によるキャッチアップも必死にやらなきゃいけないけど、みぃちゃんたちの「コビトカバチャンネル」も手は抜きたくない。Mサイズの業務も、年度末を越えて少し落ち着きつつあるけど、GW明けぐらいまでは気が抜けないとなると、ココで昼食を取るタイミングと授業ぐらいしか、心も体も休まる時間がない気がする。
「えーっと、原田くん、だったよね?」
 割と綺麗に巻けた気がする卵焼きをつまんでいると、後ろから声をかけられた。そちらに顔を向けると、さっきの授業で同じ班だった女子、
「たしかーー」
「上坂。上坂碧。ちゃんと自己紹介したんだけど、聞いてなかったでしょ」
 溌剌とした、いかにもな女子大生。取り巻き、という表現は失礼だろうけど、上坂さんの後ろに控えている感のある、キリッとした印象の背の高い女性が青柳さんで、その隣にいるスポーティな印象の女性が鈴木さん。確かに、グループワークの冒頭で自己紹介し合った気はするけど、顔と名前とを一致させるだけの興味は湧かなかった。
「隣、いい?」
 上坂さんが、僕の向かいの席を指す。土曜日とは言え、それなりに座席が埋まっている学食で、奇跡的に人数分の席が空いていた。少し離れたところにも4人掛けの空席は見えるけど、無理やり断る理由、というか気力がない。
 彼女は僕の返事を待つことなく、他の二人と共に僕の隣へ座った。上坂さんの醸すイケイケな雰囲気、主張の強い見た目に、少々の緊張が走る。化粧品か香水の匂いがフワッと鼻先をくすぐった。
 彼女らは「いただきます」と一斉に食事を取り始めた。三者三様に、メニューを選んだらしく、それぞれ何がどうだのと、楽しそうにレポートし合っている。
「原田くんは、お弁当なんだ。お母さんの手作り?」
 上坂さんが僕の方を見た。近さにドギマギしながら、「自炊だよ」と答えた。彼女は、弁当のおかずを一つずつ指して、「コレも? コレも?」と訊いた。一々頷いて答えると、「へー、凄い」と言った。
「この辺、ちょっともらってもいい?」
 上坂さんは、生姜焼きの付け合わせに入れたポテトサラダの一角を丸く示した。答えを迷っていると、「冗談、冗談」と彼女は笑った。
「でも、今度何か食べさせてよ。材料費は払うから」
 「碧だけ、ずるい〜」と鈴木さんが口を尖らせた。
「その時は、私たちもお相伴に与らせてもらっていい?」
 青柳さんがやや細い目を輝かせて言った。
「人に食べさせるようなもんじゃないよ」
「え〜。残念」
 上坂さんたちは、心底残念そうな表情を作った。その揃いっぷりが可笑しかったのか、すぐに笑い声が飛び交った。
 楽しそうに笑う女子大生の中に放り込まれた僕は、全然食事が進まない。何をどうしてこうなったのか。昼休みの間に思い当たる節は見つけられそうになかった。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。