3月5日(日)

 今日までだった漫画をTSUTAYAで返却。借りて帰りたかった目当ての漫画は貸し出し中で、空振りの心をなんとかしようと斜め向かいのミスドに足を踏み入れた。窓に貼られた少々ぽっちゃりなピカチュウ、フシギダネのシールが私も欲しいんだけど、どこで手に入るかは分からない。とりあえず、毎年のカレンダーで我慢する。
「あれ、小野寺さん」
 夕方の遅い時間、ショーケースに欠品もチラホラ見えるレジに並んでいると、隣の席から聞き覚えのある声がかけられた。ちょっぴりよそ行きっぽい浪川瑞希さんと、随分ホクホクした表情の哲朗さんが座っていた。仮面ライダーに似て、見慣れないヒーローグッズっぽいものも、その隣に鎮座している。
 「どうも」と軽く挨拶し、前が開いた列を詰めた。浪川さんが物珍しそうに、私の頭から爪先まで眺めている。こちらは知り合いに会うとはあまり想定していない、着古したユニクロ一式。ヒールのない靴、手抜きの化粧も相まって、ちんちくりん加減、幼さが加速している。
 彼女の視線を気にしていると、レジの向こうから「お次の方どうぞ」と声がかかった。ポンデリングとオールドファッション、期間限定の新作も少しお得になる組み合わせで詰めてもらう。
 会計を済ませ、「じゃあ、また」とお二人に挨拶して店を出た。外から二人を見ると、彼はとても楽しそうに話し込んでいる。非常に、眩しい。逃げるようにTSUTAYAの隣で停めた自転車をピックアップして、そのまま阪急の駅の方へ向かう。
 陽が落ちるとまだまだ肌寒い。自転車には跨らず、荷物をカゴに入れて押し歩く。商店街を抜け、茨木市駅の1階を通ってバスロータリーに出る。駅前の横断歩道を渡った少し広いところで、自転車に跨った。前後の安全を確認して、ゆっくりと市役所の方へ向けて走り出す。
 私と同じように自転車のカゴにスーパーの袋を入れた女性たちが、前から後ろから通り抜け、歩道の上をまばらに埋めている歩行者の間を上手に縫っていく。猛烈な勢い鈴を鳴らして駆け抜けていくオバさんたちもチラホラ見える。
 夜の飲食店は今日はほぼお休み。昨日までは飲み歩いていた人たちも、今日は大人しく家で飲むのだろう。さっきのイオンで、大きなボトルを買って帰ったオジさんもいたな〜。あのウィスキーはどう飲むんだろう、と目の前に気をつけながらも想像が捗る。
 綺麗になった茨木神社、立派な茨木童子の前を通り、交差点を二階渡った。市役所の前を南へ進み、業務スーパーの混雑ぶりを眺めて右に曲がる。カレーの匂いに心惹かれながら、JR茨木駅の方へ自転車を進める。
 駅前の駐輪場で一回停めないとと思っていたら、見覚えのある女性が駅へ向かって歩いている。後ろに気をつけながら自転車を脇に寄せ、サドルから降りた。自転車を押して、女性の隣までかけていく。自転車の音で気がついた女性、郁美さんがこちらに振り向いた。
「あら、ルミちゃん」
「もう帰るんですか?」
 郁美さんは自転車のカゴを見て、「あら、差し入れ?」と言った。私が頷くと彼女は「ごめんなさいね。明日も早くって」と答えた。
「また今度、ゆっくりお茶しましょ」
 郁美さんは「お母さんによろしくね」と言い残し、改札へ向かうエスカレーターに乗り込んだ。彼女の背中をゆっくり見送りながら、カゴの中のドーナッツをどうするか、思考を巡らせた。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。