3月15日(水)

 朝のメールチェックを済ませ、時計を確認すると午前6時44分。3月も後半に入り、日の出が随分早くなったとはいえ、まだまだ少し肌寒い。起きがけのスキンケアはしっかりやった。日焼け止めも忘れていない。
 ランニングウェアにウインドブレーカーを羽織り、愛犬のケビンと共に散歩を兼ねたジョギングに出かける。軽い運動のつもりでも、成犬のゴールデンレトリバーに合わせて走れば、それなりの速度で景色が後ろに流れていく。
 早めの通勤時間でもおかしくない時間帯なのに、この辺りの住民はこんな時間から出かけないようで、私のように犬とお散歩する人や、自宅の前やゴミステーションを掃除する人は見かけても、スーツ姿に革靴で急いでいる人は見かけない。
 隣を走り抜けた公園では本格的にトレーニングしている人もいたし、彩都西中や雪稜高校の方からは、野球部やらサッカー部やら、運動部の掛け声も聞こえてくる。女子バレー部の力強い声も心地いい。
 車通りの少ない大通りを渡り、坂を駆け下りてモノレールの高架に近づく。そこから右手に曲がり、真っ直ぐ北へ。ミニストップが見えてきたらさらに左へ曲がって、モノレールを潜る。彩都西公園をグルッと回って一息つけば、朝のお散歩は一区切り。だんだん体温と息が上がってきたけど、ケビンは主人を気遣って、ゆっくり歩いてくれるかしら…..。
「あ、お母さん」
 ベンチの横に差し掛かったところで声がかかった。お利口さんのケビンは上手に速度を落としてくれる。
「あら、一輝さん」
「おはようございます」
 長女の彼氏、一輝さんが仕立てのいいスーツを着て、ベンチにコーヒーとパンを広げていた。挨拶と共に「随分早いのね」と返すと、
「今日は、特別に。どうせ特別なら、そこのパン屋さんで特別な朝食をと思ったんですが、水曜日は開店が遅いんですね。失敗しちゃいました」
「それで、コンビニのパンとコーヒー?」
「まぁ、そんなところです」
 彼は笑みを浮かべ、ケビンにも挨拶をして全身を撫で回した。
「おっと、もう行かないと」
 チラリと腕時計に目をやると、慌ててパンをカバンに詰め込んだ。
「じゃあ、失礼します」
「いってらっしゃい」
 一輝さんはコーヒーを片手に、駅の方へ走って行った。蓋付カップのコーヒーがこぼれないように、上手にバランスを取りながら、力強いフォームで遠ざかっていく。
 いつの間にか私の隣で大人しくお座りしていたケビンが、下から私の顔を見上げた。
「ゴメン、ゴメン。行くよ」
 私がゆっくり走り出すと、ケビンも徐々に速度を上げていく。芝生の上を抜け、駅に向かう人たちの邪魔にならないよう、バスロータリーを大きく迂回して、再び住宅街へ入っていく。
 毎朝すれ違うご近所さんに挨拶して、ケビンもたっぷり撫でてもらって自宅に戻った。ケビンのリードを外し、たっぷり水を飲ませてあげる。愛犬が美味しそうにがぶ飲みするのを見届けながら、私もミネラルウォーターを手に取った。
 今からストレッチをして足を入念に労ってから、愛犬と一緒に朝ご飯。今日も一日、頑張るぞ。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。