2月8日(水)

 今日は久しぶりにスケッチブックとイーゼルを抱えて、市役所近くのIBALAB@広場、中央公園で屋外スケッチ。水も冷たいし、荷物にもなるし、水彩絵具じゃなくて色鉛筆でささっと仕上げた。
 防寒着はしっかり来ているものの、風が少し強い。身体がすっかり冷える前に、商店街の一本裏にあるレトロ調の喫茶店、ワンシーンへ駆け込んだ。ランチタイムだったけど、水曜日は少し空いているらしい。それほど待たずに中へ通してもらった。
 日替わりのハンバーグランチを平らげ、食後のコーヒーを出してもらって、さっきスケッチブックに描いた絵を改めて見直す。一人で矯めつ眇めつ眺めていると、「こうした方がいいんじゃないですか?」と若い男性が、絵の一部を手で隠した。
 最後に描き足した手前のボールが、全体のバランスを崩していたらしい。テーブルを挟んで目の前に立っていた男性は、隣の席に荷物を置いて、私の横に座った。「それか」と、スケッチブックの隣に置いた色鉛筆を眺め、私の目を見る。私が頷くと彼は色鉛筆を一本摘んで、手前のボールに色を塗り重ねた。色味が変わることによって、さっきとはまた違う絵になった。
「勝手にいじって、ごめんなさい」
「いえいえ。この方が素敵な絵になりましたから」
 若い男性はもう一度「すみません」と言い、色鉛筆を戻して自分の席についた。仕立ての良さそうなスーツと、ほんのり鼻をくすぐる木のいい香り。ビジネスマンっぽい出で立ちをしているけど、ただものではない雰囲気が微妙に漏れている。
 彼はメニューを見て、サッとブレンドコーヒーを注文した。スマートフォンを見ながら、お店の時計を見上げている。
「おお、悪い悪い。待たせたな」
 お店のドアを開け、作業着の男性が彼の前に座った。作業着の男性は店員を読んでメニューを見ると、「メシ食ってもいい?」と彼に尋ね、返事を待つ前に日替わりランチとセットのブレンドコーヒーを頼んでいた。食事より先に、コーヒーが運ばれてくる。
 作業着の男性は、運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ。
「水曜日は休みじゃなかったっけ?」
「現場は休みでも、色々あんのさ。そっちは昼休み、だっけ?」
「そう。貴重なね。久しぶりに兄弟でメシ食おうって言うから抜けてきたのに、直前で遅れるか? 普通」
「だから、色々あるんだって」
「晃の見積もりの甘さは変わらないな」
「兄貴が細かすぎるんだよ」
 晃と呼ばれた作業着の男性は、運ばれてきたランチに手をつけた。スーツの男性は、それを見ながらコーヒーをゆっくり飲む。
「瑞希と原田くん、お前の仕業だって?」
 作業着の男性は、食事を口に運びながら彼の方を見る。
「聡太みたいな変な虫より、アイツの方がマシだろう?」
「聡太って、お前のサッカー友達の」
 作業着の男性が頷くと、彼も納得した表情になる。
「変なことしたら俺がぶっ飛ばすけど」
「そういうキャラじゃないな。免疫はなさそうだけど……」
 作業着の男性と彼は、ニヤリと笑う。ジッとそちらを見ていると、スーツの男性がこちらに視線をくれる。何かを言いたげに片目を瞑る仕草は、とてもこなれているようだった。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。