9月17日(日)

 ルミは家の中を見回しながら、リビングまで入って来た。電器屋さんのビニール袋と、マクドナルドの紙袋を入れたビニール袋を両手に下げている。重たそうなマクドナルドの方を食卓に起き、小さい袋を持ってキッチンの方へ入って来た。
「アルカリの単二で良かった?」
 彼女は目の前のカウンターに、電池の入った袋を置いた。そのままシンクで両手を洗う。私は彼女の置いた袋を覗き込み、品物を確認する。
「一個で良かったのに、とか言いたいんでしょ? バラ売りしてなかったから、二個入りが一番小さかったの」
 私は何も言ってないのに、彼女は一人で少々不機嫌そうに言った。手元に下げたタオルで両手を拭い、食卓の椅子に腰掛けた。
 私は引き出しを開けて財布を取り出す。
「レシートは?」
 彼女は首を振って、「良いから、良いから。早く食べよう」と私を手招きする。私はとりあえず財布をエプロンのポケットに入れ、彼女の向かいに座った。
「本当にいいの? お昼も出すけど」
「だから、良いって。一回の飲み放題より安いんだし」
 私には、「飲み放題」の相場がイマイチ分からないけど、ルミは私のことなど気にかけることなく、自分で買って来た袋をガサガサと音を立てながら開けていく。
「一個はポテトのセットにしたけど、一個は単品ね。ドリンクはコーラにしたんだけど、要る?」
 私が首を横に振ると、彼女はニヤッと笑って、「じゃあ、もらうね」と自分の手前に置いた。中身を全部取り出したらしく、彼女は大きい方の紙袋をグシャグシャに潰してビニール袋の中へ放り込んだ。もう一つの小さな袋は、横にそのまま避けて置かれた。
「そっちの袋は?」
「期間限定のシェイク2つ」
 ルミは「Sだから大丈夫」と付け加えた。
「こっちがいつもので、こっちが何だっけな。なんかチーズがすごい奴」
 彼女は大小二つの包みを、真上から指差した。「どっちでもいいよ?」と言われると大きい方に目が行くけど、そんなに食べられる歳ではない。例年通りの「いつもの奴」を選んで包みを開けた。まだほんのり温かく、両手に熱が伝わってくる。
「じゃあ、いただきます」
 私は思い切ってかぶりついた。独特の食感をした卵が、お肉に負けじと存在を主張している。大きい方を選んだルミは、サイズに四苦八苦しながら一口食べた。鼻の頭に黄色いチーズが乗っかった。
 彼女は両手についた汚れも気にすることなく、そのままコーラを流し込んだ。しばらく忙しなく口が動き、ゴクッと飲み込むと共にキラキラした目でこちらを見た。
「コレは、凄いわ。去年も凄かったけど、それを超えて来たね」
 ルミは一度ハンバーガーを包みごとお皿に置いて、卓上のティッシュで鼻を拭った。
「一口食べる?」
「じゃあ、一口だけ」
 自分の包みを一旦置いて、ズッシリと重みのあるハンバーガーを手に取った。形が大きく崩れなさそうなところを見極め、少し潰しながら囓る。濃厚でややクセのあるチーズと、特製ソース、中の卵が非常に合っている。私はハンバーガーをルミに返して、さっきまで飲んでいたお茶を飲んだ。
「本当に今日も、お父さんいないんだよね?」
 ルミはポテトを摘みながら言った。
「夕方には帰るって言ってたけど」
「じゃあ、それまでにシェイクも片付けなくっちゃ」
 ルミは「ふふふ」と笑った。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。