8月14日(月)

 藤堂のツテで入手した、過去2年分のノートと、去年の講義を記録した動画。一昨年の分はオンラインでアーカイブが残っていたから、それとノート、教科書とを照らし合わせれば、概ね理解できたように思う。
 ノートも講義もデータで残しておいてくれた藤堂の知人、結果的にビデオ・オン・オンデマンドとなっていた一昨年の授業方針に感謝だな。上坂さんたちにお願いしても、あの人たちのことだから耳を揃えてデータを提供してくれただろうけど、藤堂のおかげで下手に借りを作らずに済んだのもありがたい。なんだかんだで、持つべきものは友だな。
 今度、食堂で会ったら一食分ぐらい奢らないと……。
 中身が頭に入った「つもり」で終わっても仕方がない。グループワークや実習は仕方ないとして、座学はテストもやっておきたい。カバンの中には、先生に頼み込んで入手した「当時のテスト」と、模範解答も入っている。今から広げて手をつけてもいいんだけど、小腹が空いてきたような気もする。モニターの右上へ目をやると、そろそろ11時半。
 周囲を見渡すと、電源が取れる窓際の席も半分ぐらいが埋まり、他の席も8割ぐらい埋まりかけていた。背後の大きなテーブル席も、互い違いにほぼ埋まっている
 一旦切り上げて、あとは家でやろうか。隣のマクドナルドで食べて帰ってもいい。
 僕はイヤホンを両耳から外し、ノートパソコンを閉じてカバンに入れた。藤堂の知人から借りた教科書も汚れや折り目がつかないよう、丁寧に仕舞う。動画を見ながらメモを取っていた筆記具もザッと筆入れに入れ、そのまま隙間にねじ込んだ。
 氷が溶けて、底に残っていたガムシロと混ざった液体を飲み干し、空のプラカップを片手に、カバンを背負って椅子から腰を上げた。フタとストローを分け、カップも分別する。手を洗いたいけど、どうせならトイレを済ませてから出ようか。
 運良くトイレは空いていて、サッと用を足して手を洗った。トイレを済ませて外へ出ようとしたところで、見覚えのある横顔が目の前を通り過ぎた。その背中を追いかける形で外に出る。
「陽菜ちゃん、だよね?」
 僕が目の前の背中に声をかけると、女性は足を止めて振り返った。髪型や目元の雰囲気が大人っぽく見えるけど、目の形や輪郭はお父さんによく似ている。彼女は「どうも」と会釈すると、そのまま駐輪場から自転車を出した。
 僕が自転車を出すのを気にかけることなく、そのままマクドナルドの方へ自転車を押していく。僕はそれを足早に追いかけた。彼女の自転車に並べる形で、自転車を停めた。陽菜ちゃんは、「何故、ずっと着いてくるのか」とやや鬱陶しそうな目で僕を眺めていた。
「今からお昼? 奢るよ」
 表情が若干濁る。ちっちゃい頃はもっと素直な子だった気がするけど、高校生ともなるとそんなもんか。美桜とはまた一味違うややこしさだな。
「一緒に食べなくていいからさ。俺も、勉強したいし」
 僕は自分のカバンに手を添えた。彼女も大きなカバンを下げている。陽菜ちゃんはツンとしたまま、店の中へ入っていく。僕がボサッとしていると、彼女はドアに手をかけたまま、「早く、早く」と僕に手招きをした。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。