8月7日(月)

 久々に、月曜日の中央図書館にやって来た。午前中にも関わらず、いつもより人が多いような気がするのは夏休みの真っ只中だからか。奥に見える自習室も満室のようだ。中高生ぐらいの受験生のみならず、課題図書を求める小学生や、長期休暇のお供に、絵本や児童書を求めに来た親子連れもチラホラ見える。
 入ってすぐの返却窓口の列に並ぶ。右手の予約受取のコーナーも、普段より利用者の出入りが多いような気がする。自分の番を待つ間に、肩から提げたマイバッグから本を取り出した。3冊の文庫本をまとめて右手に持ちながら、順番に捌かれていく様子を眺めている。
 流石に今日は人数が多いらしく、いつもは別の役割で使われている向こうの窓口まで、返却対応に活用されている。いま一組終わり、次の組が呼ばれた。4、5歳ぐらいの女の子と、その妹を連れた親子連れ。夫婦だろうか。大人は二人も付き添っている。
 奥さんの方は、なんとなく見覚えがあるような。顔立ちがよく似た旦那の方は、奥さんより大分年若に見える。
「次の方、どうぞ」
 よそ見をしていると、自分の前が空いていた。職員の視線が私を捉えている。私は後ろに並んでいた人に「すみません」と軽く頭を下げながら、そそくさとカウンターの前まで歩を進めた。手に持っていた本を職員に差し出す。
 文庫本は1冊ずつ変なものが挟まっていないか、汚れがないかをチェックされ、機械に通された。1冊だけ奥の棚に置かれ、残りの2冊は「後ろの棚へお願いします」と戻ってきた。全て「F」の棚に置けばいい。
 しかしながら、「かえってきた本」も思わぬ出会いが待っている。大して用もないのに「300」番台のワゴンを見てみたり、「800」番や「900」番のコーナーの前も歩いてみる。今回はあんまり面白い出会いはないらしい。「M」のコーナーも今一つ。大きな「F」の札がついていた棚に本を返した。
 あとは、新着のコーナーと特集コーナーをチラッと見て、適当に文庫本のコーナーを眺めて帰るかな。目ぼしい本、どうしても読みたい本に、今日は縁が無さそうだ。
「あら、武藤さん」
「児童書は2階」と案内が貼ってある階段の前で、さっきの奥さんに呼び止められた。「ああ、どうも」と普段より声を抑えながら、名前を思い出そうと必死に頭を働かせる。
「森田の妻です。先日は、ありがとうございました」
 彼女は子供たちに階段の前を塞がないように促しながら、私に軽く頭を下げた。そうだ、森田さんだ。二人のお嬢ちゃんも、ついこの間ご挨拶したんだっけ。でも、後ろにいる男性は、私の記憶にある「森田さん」とは明らかな別人だ。
 森田さんは何かを察したらしく、後ろの彼を指しながら「弟です」と言った。男性は「どうも」と挨拶してくれた。そう言われると、全体的な雰囲気が似ているような……。
 雄輔と名乗った彼は、姪っ子ちゃんに促されて、貸出機の方へ連れて行かれた。森田さんは、私に軽く頭を下げ、彼らをゆっくり追いかける。私は私で別れのやり取りをした後、文庫本の棚の前へ移動した。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。