8月20日(日)

 向こうの方で元気に走り回る見知らぬ子供たちを眺めながら、プラスチックのチューブに微妙に残っている、もう冷たくもないクリームを必死に吸ってみる。膨らんだ部分が一気に凹むだけで、何らかの味やフレーバーを感じるほどの量は出てこない。
 私の手を離れた片割れも、風前の灯。買う前の期待感を程々に満たしつつ、「とりあえず食べた」という事実を手に入れる。既に破り捨てられたパッケージが入っているコンビニの袋へ、微かな未練を感じながら手元のチューブを放り込む。陽菜ちゃんの方へ袋を差し出した。
「いいよ。入れて。私のワガママに付き合ってもらったんだから」
 彼女は「じゃあ、遠慮なく」とおずおずと空のチューブを袋に入れた。もう一方の手に持ったアイスコーヒーを口元に運ぶ。私も彼女に見習って、口の中に残った甘ったるさを流し込む。
「家で、智希くんとこういうの食べるの?」
 陽菜ちゃんは首を振った。私は両手で長めの筒を示しながら、「じゃあ、こういうの?」と訊くものの、彼女は再び首を振った。
「夏休みといえば、毎日のように1日1個はアイス食べてたけどなぁ」
「智希とか、お父さんとかは食べてます。私はあんまり」
 彼女は緊張を漂わせたまま、言葉を紡いだ。一緒にダンス練習をするようになってしばらく経ったと思ってたけど、まだまだそういう距離感か。お父さんの仕事仲間だと思えば、自分もそうなるな。うん。
「この後は、図書館に行くんだっけ?」
 彼女は頷いた。勉強道具が入ってそうなカバンと、真新しい文房具が入っているビニール袋を提げている。
「お父さんの誕生日をちゃんとお祝いするなんて、エラいね」
 私の言葉に、陽菜ちゃんはキョトンとしている。
「ウチは新年早々に誕生日だから、ちゃんとお祝いしたのは、去年の還暦祝いぐらいかな。その前は、うんと昔。もう覚えてないなぁ……」
 別に、彼女の年頃ぐらいにめちゃくちゃ反抗期だったこともないし、強烈に嫌いになるエピソードとかがあった訳でもないのに、めちゃくちゃ幼い頃にお祝いした記憶しか残っていない。
「だから、文面なんて何だっていいと思うよ。愛娘から手紙なんてもらったら、額縁に入れて飾るんじゃない?」
 陽菜ちゃんは若干引き気味の表情を浮かべているが、あの武藤さんなら、そういうリアクションをとってもおかしくない。何なら、お呼ばれもしてないけど、受け取る瞬間の映像を記録に残したくなってきた。行けるメンバーにこっそりお願いしようかしら。
 一人で妄想を捗らせていると、陽菜ちゃんの目付きがだんだんじっとりしてくる。
「何の参考にもならなくてゴメンね。さっきのパピコはお詫びも兼ねて……」
 無言の圧が徐々に高まっている? 私が「そういう仕事」をしているのは知っていて、そういう仕事故のアドバイスを期待しているのも分かってるつもりだったけど、思いっきり期待外れに終わってしまったらしい。
「と、とにかく、短くてもいいから心を込めて書いたら大丈夫」
 下手にアドバイスしてもアレだし、中身もアレコレ言えないし。陽菜ちゃん、そんな目をしてみたところで私にできる助言はコレぐらいしかないのだ。分かっておくれ……。

初稿: 改稿:
仮面ライター 長谷川 雄治
2013年から仮面ライターとしてWeb制作に従事。
アマチュアの物書きとして、執筆活動のほか、言語や人間社会、記号論を理系、文系の両方の立場から考えるのも最近の趣味。